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春日部、大宮、さいたま新都心。 写真と文:江本祐介 (ミュージシャン) #4August 26, 2025

これまでどんなところに行ったかなぁとインスタグラムで遡っていると、なんだかやたらと馴染み深いマンホールが目に飛び込んできた。撮った時の情報を見ると埼玉県春日部市。育った街のマンホールなんだからそりゃそうかと納得するのと同時に、意識して見た覚えもないのに記憶ってすげ〜となった。

人から埼玉県がどんなところかと聞かれると未だに上手く答えるのが難しい。

僕が住んでいた春日部、越谷の辺りはそこそこ住みやすく、東京へもほぼ電車1本で行けてアクセスも悪くはない。とは言え大手を振って人におすすめできるような名物的なものは無く、住宅街と田んぼとチェーン店が溢れかえる、とにかくあまりにも普通で、平均的で、当たり障りなくちょうど良いなだらかでまぁまぁ便利なベッドタウンだ。10代の頃はそんな埼玉が少し嫌いだったが、今振り返ると住みやすく便利で穏やかな街に思える。

春日部、大宮、さいたま新都心。 写真と文:江本祐介 (ミュージシャン) #4春日部マンホール
春日部市のマンホール。

もちろん幼少期・思春期に暮らしていたところなので、振り返ると思い入れもたくさんある。

特に小学6年生で転校するまで住んでいた武里団地のことを思い出すと今でも胸がいっぱいになる。建設当時はマンモス団地だったらしく、全体を1周するのに半日はかかり、大人になってもその広さに驚く。広大な敷地をまっぷたつに縦断する道路は長いけやきの並木道となっており、夏になるとそのけやき通りで大きな祭りが行われていた。祭りの日には団地の真ん中から大きな音が響き渡り、大人たちはみんな酒を飲んで楽しそうに宴会をし、子どもたちはもらったお小遣いを握りしめ、金魚をすくったり、型抜きしたり、当たらないくじを引いていた。普段だったら外に出ることを許されない夜の真っ暗な団地の中を、友達と歩き回るのは夢のような不思議な時間だった。

数年前に久々に武里団地を訪れると、老朽化で少しずつ取り壊されており、かつて遊びまくった公園の遊具もベンチ以外はほとんど無くなっていた。友達と一緒にポケモンをしたブランコも、無理やりミニ四駆を走らせたすべり台も、綺麗さっぱり無くなっており、その時にいつまでも残り続けるものはないのだということを実感した。

小学6年生になり引っ越すことになったが、なんでか仲の良かった友達らに言い出せないまま夏休みの間に引っ越した。と言っても引越し先は同じ市内で、自転車を20分も漕げば前の家に行ける距離だ。今思えば大した問題ではないんだけれど、その僅かな距離で学区が変わり転校することにもなったので当時の僕としてはあまりにも深刻な問題だった。最初は新しい学校にも馴染めず、泣いて学校を休む日もあったが、良い出会いに恵まれ卒業の時にはたくさんの友達ができていた。

中学生になるといよいよ自分は“ネクラ”な性格なんだなと自覚も出てきて、このままじゃいかんとお年玉でもらったお金を握りしめてギターを買った。ギターを始めて半年経った頃、幼馴染と夏祭りで久々に再会し、話してみたら彼もギターを始めたというので、なんとなくバンドを組むことになった。近くの図書館にはいわゆるロックの名盤がちょいちょいあり、お金のない僕らは図書館でCDを借りてはカセットテープにダビングして交換し合った。ドラマーがいなかったので探すもなかなか見つからず、クラスメイトがゲームセンターにある「DrumMania」が得意だというので、バンドに誘った。初めてのライブは春日部の少し大きな公民館でのバンドコンテスト。ガチャガチャの演奏でビートルズの「Twist And Shout」を披露して、人生で味わったことのない満足感を覚えた。

それから高校へと進み、少しずつ移動範囲が増えた。そのなかでもよく遊びに行ったのは大宮駅。“トップオブ埼玉”と言っても過言ではない大宮には、洋品店やCDショップ、ライブハウスもあり、とにかくありとあらゆるものがあった。初めてできた彼女とのデートでは大宮の「さいたま市宇宙劇場」でプラネタリウムを見て、『大宮マルイ』の〈サーティワンアイスクリーム〉でアイスを買って階段で座って一緒に食べたのが思い出深い。すぐ隣のさいたま新都心には「さいたまスーパーアリーナ」があり、生まれて初めて観たコンサートはダ・パンプだった。今はもう無いが、アリーナ内には「ジョン・レノン・ミュージアム」があり、ビートルズに夢中だった高校生の頃にバンドメンバーとよく見に行っていた。展示スペースには黒電話が置いてあり、たまに鳴る受話器を取ると、オノ・ヨーコと繋がるなんて噂もあった。

今回の連載がなければわざわざ振り返ることもなかった埼玉も、やっぱり好きな街だった。


ミュージシャン 江本 祐介

江本 祐介
えもと・ゆうすけ/ミュージシャン。埼玉県出身。2025年2月22日に1st album 『ありがとう』をリリース。ENJOY MUSIC CLUBのメンバーとしても活動中。

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