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私も写真集を読んでみたい! 『SWISS / 長島有里枝』編。写真と文:黒﨑由衣 (『book obscura』店主) #3July 18, 2025
「写真集は読み物」「オリジナルプリントと写真集の違い」について話してきましたが、結局、どんな写真集を読めばいいの? と、なりますよね。#1、#2と読んでいただいたみなさまありがとうございます。
23年間も写真史と写真集史を研究し続けている私の脳内には、見てきた全ページのデータや読んで気が付いたこと、何が言いたかったのか、写真で何をやったのか、に加えて世界史やカメラや印刷技術の歴史も入っています。
あらゆる視点から日々読み解いているのですが、いきなり写真を読み解くのは難しいかと思いますので、初めて写真集を読む! という人におすすめしたいのが長島有里枝さんの『SWISS』です。
2010年に刊行された写真集で古書市場では大変な価値がついていたのですが、2024年に再販されたのでまた定価で買えるようになったのです!
そして、この写真集がなぜおすすめなのかと言うと........、日記と写真で構成されているので、写真だけで「何の話をしているのかな?」と読み解くのに慣れていない人にも優しい1冊だからです。
これまで文章と写真が混ざりあった様々な写真集を見てきましたが、これほど完璧な一冊は見たことがありません。長島さんの写真は、それだけでも充分に満足できる作品なのですが、本書は写真と文章のバランスが素晴らしく、文章を読んでいるのに写真が浮かんで来て、反対に写真を見ていると文章が浮かんでくる、このマリアージュぶりに心打たれまくりです。作家さんから出てくるものは写真であろうと文章であろうと同じものなのだなと思わずにはいられません。
それもそのはず、長島さんは『背中の記憶』で第23回三島由紀夫賞候補、第26回講談社エッセイ賞受賞をしており、執筆でも活躍されている方です。『テント日記/「縫うこと、着ること、語ること。」日記』『こんな大人になりました』『去年の今日』など、たくさんの名作があります。長島さんは「写真」も「文章」も両立されている作家さんなのです。
写真だけで読み解く努力も素敵なのですが、最初は無理せず、文章に頼りながら写真集は読み物! の楽しみ方を少しずつ体験していってもらえればと思います。
さて、この『SWISS』は、2007年に長島さんが息子さんと一緒にスイスのアーティストレジデンスに滞在する話ですが、ページの途中に昔懐かしい飛行機の搭乗チケットなど旅先でよく手にするものの複製が挟み込まれており、ただ写真集を見るというより日記を見ている感覚に近く、自分もスイスに行った気持ちになってきます。テキストページの合間には透き通る紙が使われていたりと、触り心地という触覚も、見た目という視覚も充分過ぎるほど満足できます。
布装の表紙は、なんと22種類。バービー人形も驚く真っピンクや、ラベンダーにネイビーと、自分のお気に入りを探すのが楽しくなってしまいます。表紙の色や布が変わっていても、内容は変わりませんのご安心を。5500円と写真集の世界ではお求めやすい価格なのでプレゼントにも最適です。
あまりにも良い部分が多すぎて興奮しすぎですね私。
『book obscura』店主 黒﨑 由衣
