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オリジナルプリントと写真集の違い。写真と文:黒﨑由衣 (『book obscura』店主) #2July 11, 2025

総合開館30周年記念 ルイジ・ギッリ 終わらない風景. オリジナルプリントと写真集の違い。写真と文:黒﨑由衣 (『book obscura』店主) #2
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総合開館30周年記念 ルイジ・ギッリ 終わらない風景 オリジナルプリントと写真集の違い。写真と文:黒﨑由衣 (『book obscura』店主) #2

写真は「色」と「明るさ」を使って作る作品です。では、Macの液晶画面とWindowsの液晶画面の「色」は一緒でしょうか。

この地球上に存在しているスマートフォンの「明るさ」は全部一緒なのでしょうか。

読者側の見る媒体によって、写真の色や明るさが変わってしまう可能性があることも考えなければいけません。

作家さんが本当に伝えたかった色や明るさでできれば見たい。そんな中で安心して鑑賞できるのは、作家さんが納得して制作したオリジナルプリントを見るのが一番良いですが、世界中にオリジナルプリントを持って展示しに行くのはちょっと無理があります。

言うならば展示会場でオリジナルプリントを見るということは、ライブ会場で耳に振動してくる体験も含めて響き渡る生の音を聞くようなもの。対して写真集は例えるとCD音源のようなもの。

オリジナルプリントの色には敵いませんが、写真集は地球上に存在しているすべての人に向けて「同じ大きさ」「同じ色」「同じ明るさ」で見せることができる唯一無二の媒体です。だからこそ写真家さんは、写真集を今もなお作っているのだと私は思います。

前述した通り、やはり1番はオリジナルプリントを見ることだと思うので、私は時間が許す限り、展示会場に足を運んでプリントで作品を見るようにしています。写真の大きさ、色、並び、受け取れるありとあらゆることを通して話を伺う感じですかね。

東京の恵比寿にある東京都写真美術館では、2025年7月3日(木)からルイジ・ギッリというイタリアの写真家の展示が始まっています。

ルイジ・ギッリは「カラー写真のパイオニア」と称されており、1970年代後半からアメリカで巻き起こるカラー写真の幕開け「ニューカラーフォトグラフィー」と言われているムーブメントを代表する写真家さん、ウィリアム・エグルストンが嫉妬した人とも知られています。

カラー写真の幕開けとして、写真史に必ず掲載される作家さんが嫉妬する人とは?

情熱的でロマンチックなイメージがあるイタリアの出身ですが、ギッリの作品はすべて爽やかで心地が良く、息つく暇もなく過ぎ去っていく時間の流れを忘れさせてくれるような作品ばかりです。写っている世界は現実のものばかりですが、どこか非現実的で、夢なのか空想なのか不思議な空気感があります。

プリントを見られる機会(=ライブ会場で音を聴くような)体験ができるおすすめな展示です。しかも、イタリアの写真家さんの作品を実際に見ることができるのは、そう多くはありません。カラー写真好きは絶対に見て損は無い人なので、ぜひ足を運んでみてください。

そして、その後にギッリの写真集を鑑賞して、プリントと写真集の違いをその目でお確かめください。写真を撮っているけど、写真集を買ったことがないという人の最初の一歩としても彼の写真集はおすすめです。持ち帰って自宅鑑賞会をしながら、どっぷり浸かってみてはいかがでしょうか。


『book obscura』店主 黒﨑 由衣

book obscura_logo案
くろさき・ゆい/東京・吉祥寺の井の頭にて写真集専門書店『book obscura (ブックオブスキュラ)』を営む。写真集の古書・新刊を取り扱い、不定期で写真展や写真史のワークショップを開催。20年以上、写真史・写真集史を研究している。

instagram.com/bookobscura

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