&EYES あの人が見つけたモノ、コト、ヒト。

写真集は読み物。写真と文:黒﨑由衣 (『book obscura』店主) #1July 04, 2025

写真集は読み物。写真と文:黒﨑由衣 (『book obscura』店主) #1
『bookobscura』店内。写真家の写真集をメインに取り扱う専門店。
写真集は読み物。写真と文:黒﨑由衣 (『book obscura』店主) #1
私のデスク脇にある蔵書本棚。
写真集は読み物。写真と文:黒﨑由衣 (『book obscura』店主) #1
ヲタクが過ぎると、色の違いを楽しみ始める。
写真集は読み物。写真と文:黒﨑由衣 (『book obscura』店主) #1
ヲタクが過ぎると、写真集を取り扱う本屋か古本市がある場所にしか旅行に行かなくなる。

写真集にハマった時から、言葉や文章を使わずに写真一枚で感情や意思を伝えてくる写真家なる人間の能力に驚愕し、気がついたら写真集史や写真史を研究して23年もの歳月が過ぎていました。

研究が度を越した結果、気がついたら写真集専門の書店を経営しており、日々仕事をしているのか、ヲタク活動をしているのか、遊んでいるのかよくわからない日々です。

みなさんは「写真集」という言葉が出てきた時に、どのようなものを思い浮かべますか。

モデルさんや女優さん、アイドルさんの写真集でしょうか。それとも、一生に一度は行きたくなる世界の絶景をまとめたものでしょうか。

私が中学生の時からどハマりしてしまった一冊は、写真家さんの作品となる写真集です。

写真家さんは、撮影技術・表現技術・印刷技術などありとあらゆる技術を駆使して、1枚の写真としてはもちろん、束にして流れを作ることによって、より深い話を始めます。写真集は、「素敵な写真!」と、一枚一枚を見ることも楽しい本ではありますが、私は読み物だと思います。

そう口にすると驚かれることがしばしばありますが、小説家が文章だけで世界観を編み出すように、漫画家が絵とアニメーションで世界観を編み出すように、写真家さんは写真で文章や絵と同じことをします。なので、読めるし見れるのです。

そして何より写真は、地球上のありとあらゆる言語、例えば日本語や英語、フランス語や手話や絵文字のすべてを持ってきたとしても、単語数の豊かさで勝るものはないと私は思っています。なぜならば、写真で「やさしい」を表現してくださいと言ったら、無限に出てきてしまいます。それは「やさしい」という言葉は、誰もがイメージする定義づけされた単語や音であり、1人ひとりが持ち合わせている「やさしい」のバリエーションは無限に存在しているからなのでしょう。

「やさしい」を無限に分解できる写真で、作家さんがそれぞれの単語を生み出し、並べることで文章にする。まさしく写真集は読み物なのです。

そんな写真集の読み方ですが、まず重要なのは、最初は自分の感性だけで読み解いてみること、です。

「こういう話だ」と最初から受け取った状態で読んでしまうと「そういうもの」として見てしまい、自分の感性が育って行きません。怖いと思っても、わからないと思っても大丈夫です。それが自分の感性なので、なぜそう思ったのだろうと育ててみてください。

そうすると、AIがやっているような一般的にイメージしやすいものという見方が外れ、個人としての感性が育ち、作家さんも個人であることが意識しやすくなります。

「第一印象はこう思った」と感じた後に、「で、これはどんなことを言いたいのだろう? 何の話なのかな?」と、写真から受け取れるものだけで考えます。見続けていくうちに、「こういうことかな?」と言葉にできそうになってきたら、説明文を読み始めます。そしてまた写真に戻ると、「だからこの部分を撮影しているのね!」など、新しい視点が見えてくることもあります。

写真集のタイトルは写真家さんからの最大にした、たった1つのヒント。作家さんからしたら、せっかく、タイトルを付けたのに気にしてもらえなかったと、しょんぼりしてしまうかもしれません。

もし今、写真集が手元にあれば、すでに自分の感性で読み終わっているかと思いますので、ぜひタイトルを頼りにしながら「なんの話をしているのかな?」と読み解いてみてください。

写真集は3回味が変わる書籍。第一印象で味わっていた写真集が、作家さんの国籍や撮影された時代を調べることで第二の味わいに変わり、もし作家さんと話せる機会があれば、それは生の味に変わります。

最初の味わいだけで「おいしい!」となっていたら勿体ないのが写真集です。


『book obscura』店主 黒﨑 由衣

book obscura_logo案
くろさき・ゆい/東京・吉祥寺の井の頭にて写真集専門書店『book obscura (ブックオブスキュラ)』を営む。写真集の古書・新刊を取り扱い、不定期で写真展や写真史のワークショップを開催。20年以上、写真史・写真集史を研究している。

instagram.com/bookobscura

Pick Up 注目の記事

Latest Issue 最新号

Latest Issuepremium No. 140心を整える、日本の旅。2025.06.20 — 960円