BOOKSHOP らくだ舎


選・文 / らくだ舎 / December 15, 2022 本屋が届けるベターライフブックス。『山と獣と肉と皮』繁延あづさ 著 (亜紀書房)

This Month Theme台所で過ごす時間を大切にしたくなる本。

山と獣と肉と皮

「狩猟に同行し、目で見て、触れて、嗅いで、受け取った情報を手がかりに料理をする機会を得たことである種の満足感を得た」と、本書のなかで繁延さんは書いている。日々たくさんの食材と出合い、調理している私たちは、その食材の出自をどれくらい五感で受け取れているだろうか? 肉だけではない。魚も、野菜ですらも、一つ一つに出自がある。3人の子を持つひとりの母親であり、日々料理を作る当事者として紡がれる繁延さんの言葉は、食材の出自に思いをはせることは、作り手にも食べ手にとっても食べる満足感をもたらす大切な過程だ、と教えてくれる。


選・文 / らくだ舎 / December 08, 2022 本屋が届けるベターライフブックス。『日本国憲法』齋藤陽道 写真 (港の人)

This Month Theme台所で過ごす時間を大切にしたくなる本。

日本国憲法

食べることは生きること。その根本を支える料理は、自分も含め大切なだれかの生を肯定する行為だ。つい忘れてしまうけれど、私たちは日々、自分や大切な誰かの生を料理によって言祝いでいる。料理と同じように、日本国憲法も、少なくとも作られた当時の日本は、この国で暮らすすべての人の生を言祝いでいた。この本を読んでそう感じられたことがとても嬉しく、私は無性にご飯を作りたくなった。無味乾燥に見えがちな憲法から人の営みへの慈しみが立ち昇ってくるのは、齋藤さんの写真の力によるところも大きい。本の形、装丁、余分な文章が一切ない構成、編集の力もひしひしと感じる一冊。


選・文 / らくだ舎 / December 01, 2022 本屋が届けるベターライフブックス。『家をせおって歩いた』村上慧 著 (夕書房)

This Month Theme台所で過ごす時間を大切にしたくなる本。

家をせおって歩いた

約1年間、発泡スチロール製の家を担ぎながら日本を歩き、人と会い、絵を描き、思考した美術家・村上慧さんの日記。日記という形もあって、読み進めるうちに、村上さんの考えが読み手に移っていくような、一緒に考えているような気分になる。村上さんの営みからにじみでる「生活とはなにか?」という問いは、わたしたちの価値観をゆっくりと揺さぶり、 日々を問い直すきっかけをくれる。茫漠とした気持ちになるとき、料理なんか作りたくないと思うとき、淡々と日々を綴る日記を読むと、なんだか心が落ち着くから不思議。


選・文 / らくだ舎 / November 24, 2022 本屋が届けるベターライフブックス。『おいしいが聞こえる』ひらいめぐみ 著 (リトルプレス)

This Month Theme台所で過ごす時間を大切にしたくなる本。

おいしいが聞こえる

わたしたちは、食べたものでできている。それは生物としてだけでなく、作ってから食べるまでの気持ちや一緒に食べた人、交わした会話、見た風景、日常の記憶の集積という意味合いもある。もちろん、いい記憶ばかりではない。これから先、食べものが喉を通らない、なんて日もあるはずだ。それでも日々をなんとか「大丈夫」にしていくために、わたしたちを後追いで救ってくれるのもまた、食べものだ。本書にはこんな一文がある。「日々当たり前のことを着実とこなしていくことしかできなくても、当たり前のことを着実にこなしてできたクッキーはこんなにもおいしいじゃないか、と。大丈夫になるのだ」だからきっと、明日も大丈夫。平井さんの本を読んだら、きっとそう思えるし、料理がしたくなる。


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和歌山県熊野地方・旧色川村に移住し週3日地域に開かれた喫茶室を運営。小さな書店と図書室も併設しており、折に触れて読み返したいと思える書籍を中心に新刊古書問わず書籍の取り扱いをしている。ゆっくりと心に届いてくる、確かな手触りのあるメッセージを発信している。
住所:和歌山県東牟婁郡那智勝浦町口色川742-2 色川よろず屋内
営業時間:木金土10:00-17:30
定休日:日月火

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