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わたしの心のように、移り変わる季節。写真と文:ひらいめぐみ (作家、ライター) #4June 27, 2025

自著『ひらめちゃん』(百万年書房)が発売された日、近所の花屋で薄桃色の芍薬を買った。熟れる前のプラムのような蕾。翌朝、いつのまにか花のかたちをしていた。数日後、水を入れ替えようと花瓶を持ち上げると、ぼたり、ぼたりと花びらが落ちる。降り始めの雨みたいだなと思う。

#04 hiraimegumi

昨年の春、平常運転ではない状況が続いていることに気づいた。普段なら、さして気に留めないことで落ち込み、声を上げて泣く。寝不足が続いているのに、ほとんど眠れない。心療内科へ駆け込むと、適応障害だと診断された。

薬を服用し、徐々に仕事が落ち着くと、急に泣くことも、眠れなくなることもなくなった。数か月後の通院で経過を報告すると、先生は「泣かなくなってきたら大丈夫ですよ」と言った。「なぜだか涙が出る」ことが続くと、注意したほうがいいと教えてくれた。

今年の梅雨入りに関するニュースを見て、去年の自分のことを思い出す。

梅雨入りは明確には言えないらしく、前後の天気から「梅雨入りしたとみられます」と発表される。秋頃になって、「やっぱりこの時期が梅雨でした」と訂正されることもあるらしい。

病院に行く前の自分も、そうだった。些細なことで泣く回数が増えて(いつもと違うかもしれない)と気づいても、病院へ行って実際に診断を受けても、「たしかにあの頃の自分は適応障害だった」と理解したのは調子が戻ってきて少し経ってからのことだった。

毎年梅雨の時期も中盤に差しかかると、「梅雨明け いつ」で検索していたが、今年はしないと決めている。自分の心のゆらぎのように、季節が移り変わろうとしているのだと思えば、梅雨のことも、梅雨よりもっと苦手な夏のことも、少しだけ好きになれるかもしれない。


作家、ライター ひらい めぐみ

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1992年生まれ。7歳の頃からたまご(の上についている)シールを集めている。著作に『転職ばっかりうまくなる』、『ひらめちゃん』(いずれも百万年書房)など。

hiramelonpan.com

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