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「似合う」を構成する3つの像。写真と文:長見佳祐 (ファッションデザイナー) #2December 12, 2025
日本最大の毛織物産地と知られる「尾州(びしゅう)」は愛知県の西側、一宮市を中心に広がっている。朝から一宮の工場に入り、今はその帰りの車中。夏から新しい織物を開発しているのだけど、何度見ても織機(布を織る機械)、特にジャカード織機は美しい。通糸(つうじいと)と呼ばれる無数の吊り糸が交錯する機構の荘厳さを、アウトプットたる布はまだ体現しきれていないとさえ感じる。

「ジャカード」は織りの組織や、糸の配列をコントロールして模様を表現する手法で、とても大掛かりな装置を必要とする。織機そのものは地上にあり、その上空4〜5mほどの位置に、操り人形を動かすような格好で巨大なジャカードマシンが吊り上げられている。おもしろいのはジャカード織物がこれだけ大掛かりな製造背景を持ちながらも、その多くが機能性ではなく、“装飾”のために用いられていること。ただ服の見た目を豊かにするために、数千本の糸を上下させる巨大な装置と技術、情熱、そして欲望が結びついている。その事実を工場で目の当たりにするたび、いつも妙な愛おしさを覚えてしまう。

このコラムでは前回、良くも悪くも生活につきまとう「似合う」という現象についての断片を集めた。「そのシャツ、あなたによく似合う」というように、人と物の関係にフォーカスされる一方で、例えば友人と家族ではその評価が変わってしまうこともある。見る人によって変わるなら、人と物ではなくて、別の何かが「似通い合って」いるんじゃないか? 結局似合うってなに、というあらすじ。
#1では、初対面の人同士での「似合う」にも触れた。関係性がおぼつかないうちに繰り出される「似合う」は、少しの警戒心さえ与えてしまうこともあるというもの。例えば、衣服を扱うショップの営業では多くの初対面が発生するはず。商品を「きっと似合う」と勧めるとき、販売スタッフは何に気を配っているだろう。
店員が客に勧めて試着してもらい、実際似合って見えたとしても、着た当人は納得いかないことがある。そのほうが多いかもしれない。ここでも似合うの評価に齟齬が生まれている。 これは客の自己像と、店員が想定する客の自己像(=どんな人間像で在りたいと考えられるか)にズレが大きいということだと思う。ここでの店員の仕事は、想定される自己像の精度を、会話を通してできるだけ高めながら、同時に「このくらいまでは踏み出せそう」と、なるべく遠くまで連れて行くことだといえるかもしれない。
一度まとめると、Aさんには自己像があり、それと多少ブレのある客体像(=客観的にみた自分)がある。さらにAさんの友人、あるいはショップスタッフからみたAさんの想定自己像がある。「似合う」はこの3像の空中戦で起きているだろうというのがひとつの予測で、この絡み合いの中では服と人との相性はー素材に過ぎないというのが、最初の結論へと繋がっている。
やや踏み込めば、自己像と想定自己像のループを内面化して楽しめるAさんは洒落者、といえそうな予感もあるのだけど続きはまた。

ファッションデザイナー 長見佳祐
















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