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大人のボサノバ。 TBSアナウンサー・吉村恵里子 #4March 26, 2025
最終回にご紹介するアルバムは、坂本龍一さんとジャキス&パウラ・モレレンバウム夫妻のボサノバ・コラボ『CASA/MORELENBAUM2&坂本龍一』です。

ライブが始まる頃、薄暗くなった会場で、観客がお酒を酌み交わしています。ナイフとお皿がカチャカチャとなる音と父のジャズを聴くことが好きでした。子どもなりにかっこいいな、自分も加わりたいなと羨ましかったことを覚えています。今も、ボサノバが好きだと伝えると20歳を超えていても「若いのに渋いジャンルが好きなんだね」と言われたり。
このアルバム『CASA/MORELENBAUM2&坂本龍一』はクラシックに近いボサノバです。少し背伸びしているかもしれませんが、大人になった今の私がやっと聴けるようになったような、そんな気がします。
ボサノバの生みの親といわれるアントニオ・カルロス・ジョビン。彼の楽曲を坂本龍一さんがピアノで彩っています。
坂本龍一さんはジョビンが使用していたピアノで、かつジョビンが生前使っていたスタジオでレコーディングしました。バックの演奏にはかつてジョビンのバックで活躍していたモレレンバウム夫妻が務めています。時を超えたオマージュ作品で、曲の節々から坂本龍一さんのジョビンへの敬愛が感じられます。
このアルバムはクラシックに近いボサノバで、ブラジル音楽のような底抜けに明るい軽快なビートがないのが特徴です。またボサノバにチェロが入っているのは珍しく、いわゆる典型的なボサノバの概念を覆すような存在。
坂本龍一さんのピアノはかつてジョビンがそうだったように、少ない音数で奏でられています。洗練されたピアノの旋律と、切ないチェロがより透明度を高めていて美しいのです。
4回のコラム、これで最後となります。
ボサノバについての好きを言語化でき、とても貴重な機会でした。
edit : Sayuri Otobe
TBSアナウンサー 吉村恵里子
