Interior

ものづくりとセンスの関係性。
〈石巻工房〉デザイナー、芦沢啓治さんの考え方。April 07, 2023

シンプル、機能的、美しい佇まい。心地よいと感じるデザインの根底には、固定観念にとらわれない価値観や細部へのこだわりがある。2023年3月20日発売の『&Premium』の特集「センスのいい人が、していること」内で、4組の作り手に製作背景を聞いた企画「ものづくりとセンス」から、ここでは、〈石巻工房〉デザイナー、芦沢啓治さんのものづくり、センスの考え方を紹介します。

BRAND 石巻工房  Designer 芦沢啓治 Keiji Ashizawa

ものづくりとセンスの関係性。<br>〈石巻工房〉デザイナー、芦沢啓治さんの考え方。
東日本大震災で被災した宮城県石巻の復旧を目的に「地域のものづくりの場」として誕生。誰もがDIYできる家具はデザイン力の高さも魅力。AAシリーズのスツールとデスクはコンパクトで持ち運びしやすい。トラフ建築設計事務所デザインによるスツール¥34,100、デスク¥86,350、バードキット¥5,060(以上石巻工房 https://kobo-shop.net

誰もがDIYできる家具から、暮らしを豊かにするデザインを実現。

 きっかけは東日本大震災の復旧支援だった。宮城県石巻の知人の店舗が被災し、ボランティアとして現地に入った建築家の芦沢啓治さんは、次第に建築家として自分が貢献できることを考えるようになったという。壊滅的な被害を受けた石巻は、特に個人宅の修復工事が遅れていた。周辺の材を使って器用に修繕する住民がいる一方で、ビールケースを椅子代わりに使う老人もいた。誰もがDIYができれば、暮らしを取り戻すことに繋がるのではと考えた。そこで立ち上げたのが石巻工房だ。公共の工房を作り、レクチャーできるメンバーを集めて、市民へ家具のワークショップを行う。作り方がわかれば、必要なものを自由に組み立てることができる。構造はごくシンプルに、材は手に入りやすく軽いもの、釘ではなく、ビスを使って簡単に組み立てられるもの、野外でも使用できるもの。やがて、石巻工房の家具は街を代表する家具となり、注目を集めるように。3年後には法人化し、芦沢さんは代表に就任した。現在、工房には工房長の千葉隆博さんら6 人が働く。石巻工房のプロジェクトが広がった背景の一つには外部のデザイン力がある。家具デザイナーの藤森泰司やトラフ建築設計事務所、カリモクなど国内外でのコラボレーションで一気にブランド化した。また芦沢さんが立ち上げ、期待を寄せる「メイド・イン・ローカル」プロジェクトは、石巻工房の図面を海外のパートナーに渡し、現地で製作、販売するというもの。現在イギリス、アメリカ、フィリピンなど、世界の10を超える地域で商品が作られている。

「石巻工房へロイヤリティが入るので、経営が安定化し、雇用を守ることにも繋がる。実は図面通りに作らなくていいと伝えていて、独自に商品を作ってもかまわない。石巻工房とのコミュニケーションの中から生まれたものなら、それこそ目指している形です」

 芦沢さんが手がけるユニークなプロジェクトのアイデアは〝観察〞から生まれるという。「例えば公共工房は、以前スウェーデンのヨーテボリで目にして、ずっと頭の片隅にあったもの。眺めているとさまざまな気づきがあるので、観察の〝結果〞である点と点が繋がり、面になるように広がっていく感じです」

 一方で、いいアイデアを思いついても、始めることや継続することは簡単ではない。「例えばマラソンでもぼんやり走っていてはダメで目標があるから続く。粘り強くやっていると少しずつ進化していく。僕自身、何年も同じデザインをやっているなと思うときもあるけれど、大きさやフォルムは微妙に変えていて、常に最良の形を求めています」

 デザインにはそんな 〝しつこさ〞が大事だと芦沢さん。物事の観察やディテールの追求を積み重ねること。それが揺るぎないセンスとなることは、彼の仕事が教えてくれる。

シグネチャーアイテムとなった石巻スツールの作りを解説する芦沢さん。
シグネチャーアイテムとなった石巻スツールの作りを解説する芦沢さん。
石巻工房東京ショールームの一角には芦沢さんが手がける仕事のミニチュア模型が。
石巻工房東京ショールームの一角には芦沢さんが手がける仕事のミニチュア模型が。
ごくシンプルなパーツで誰もが組み立てできるよう工夫されている。最初は地元の高校生と一緒に同じような構造のベンチを40台ほど作った。
ごくシンプルなパーツで誰もが組み立てできるよう工夫されている。最初は地元の高校生と一緒に同じような構造のベンチを40台ほど作った。

PROFILE

芦沢啓治

1973年、東京都生まれ。2005年に芦沢啓治建築設計事務所設立。2011年に石巻工房を設立し、2014年、代表就任。「正直なデザイン」をモットーに建築、プロダクト、家具など幅広くデザインプロジェクトに携わる。

photo : Masanori Kaneshita edit & text : Chizuru Atsuta

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