MUSIC 心地よい音楽を。

土曜の朝と日曜の夜の音楽。 今月の選曲家/Small Circle of Friends vol.2February 11, 2022

February.11 – February.17, 2022

Saturday Morning

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Title.
Look Out For Youself
Artist.
Wunder
こんなにロマンティックなのに、ダイレクトに語りかけてくる音の粒が、朝の光に照らされて、または雨の日には雨粒のように降り注ぐ。朝のルーティンの傍に響き、身体中にまとわり、脳を巡り、歩くごとに床に蒔かれた音を踏みしめるかの如く。そんな朝は毎日だって愉快で幸せです。
ドイツのエレクトロニカや音響が注目されるきっかけになったと言われているヨルグ・フォラート(a.k.a.ヴェクセル・ガーランド)ヴンダーですが、当時とんでもないものを聴いたような感覚になり私は「彼の衝動的な感情に巻き込まれたんじゃないのか?」とさえ思うほどの音の渦に、夢中で聴いていたことを思い出します。
もちろん「とんでもないもの」とは「圧倒的にその音にやられた」ってことなんだけど、その感じた「衝動」は意外にも彼のインタビューの言葉「様々なサンプリングを組み、結構な早さで完成したからあまり満足していない」と読んで、ファーストインプレッションは間違いではなかったんだなと思い至りました。
今の私だから言えることだけど、多少整理されていない状況でもクリエートしたいと思う欲求がエモーショナルになることは往々にしてあると思うし、そんなふうに作った作品を後に『今思えばとっちらかってて嫌だな』と思うのもわからなくもない。
でもその時の彼でしかできない音だったのだから、ダイレクトに響き1998年の作品でありながら今でも聴いている証しなんだと思うのです。
その後ヴンダーことヨルグ・フォラートは、ヴェクセル・ガーランド名義でも「Dreams Become Things」「S.T」などアコースティックでオーガニックな美しいアルバム作品をリリース。近年はリミキサーとしても活躍しています。
彼が今はどう思っているかわからないけれど、あのヴンダー名義の作品は悔しいほどのセンスだったんだな。そう思うと「Look Out For Yourself」がアルバム1曲目だなんて、ちょっと意味深です。いや今思うとね。
(ムトウ サツキ)
アルバム『Wunder』収録。

Sunday Night

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Title.
Nikes
Artist.
Frank Ocean
月の美しい夜、遠くに狼が鳴いているような草原の小屋でひとり眠れず「Nikes」を聴く。ふと横を見るとその狼は静かに歩き寄って来て傍に座りこちらを優しく見守る。仲間の狼の遠吠えを彼方に聴いていると、知らぬ間に眠りについた。翌朝「あれはフランクだったんじゃないだろうか」と、きっと思うんだ。
すでにこのアルバムについての素晴らしさは、いろんなところで書かれているし私がいうまでもなく、キックだとかスネアだとか、もちろんリリックの素晴らしさだとか、その作り自体を解体し、説明することよりも、美しく佇む音をただただ聴くのです。なかなか彼の言葉で語られない制作や自身の身の回り事は謎が多いし、知りたくなる気持ちはわからなくもないけれど、もう謎のままでいいと思う。
ただひとつ面白いエピソードがあって、フランク・オーシャンがオッド・フューチャー時代の話で「タイラー・ザ・クリエイターやアール・スウェットシャツと出会いオッド・フューチャーはクルーだけど、みんな”自分でやるんだ”ってメンタリティがあったからそこに惹かれたんだ」という言葉を書いた記事を読んだ時、彼のその時の感情や孤独、想いが込められているのだと感じ、オッド・フューチャーとの出会いは彼にとって大きな転機になり、その後の見事な仕事はいうまでもなく今に至るのです。
「みんな”自分でやるんだ”ってメンタリティ」孤独なようで自由。私たちも変わらない心持ちで毎日制作しています。
そんなことを考えながら今夜も眠りにつくのです。遠くに狼の彼の鳴く声を聴きながら。
うぉーん。うぉーん。。
(ムトウ サツキ)
アルバム『Blonde』収録。



&Music / 土曜の朝と日曜の夜の音楽 Ⅱ

&Music / 土曜の朝と日曜の夜の音楽 Ⅱ

音楽好きの“選曲家”たちが月替わりで登場し、土曜の朝と日曜の夜に聴きたい曲を毎週それぞれ1曲ずつセレクトする人気連載をまとめた「&Music」シリーズの第2弾。 23人の選曲家が選んだ、週末を心地よく過ごすための音楽、全200曲。 本書のためだけにまとめた、収録作品のディスクガイド付き。

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ミュージシャン Small Circle of Friends

ムトウサツキとアズマリキの二人組。1993年、United future organizationのレーベル〈Brownswood〉よりデビュー。以来、17枚のフル・アルバムをリリース。2005年にはインストゥルメンタルに特化したサイド・プロジェクト「STUDIO75」をスタートし、英国の人気DJ、ジャイルス・ピーターソンもラジオ・プログラムにてプレイするなど、世界的な評価を得た。アーティストのトータルプロデュースからbeat製作も多数。最新は、BASI、maco marets、kojikojiなど。最新作は2021年12月にリリースした12枚目のアルバム『cell』。2020年の春から冬にかけて、自分たちのスタジオ「studio75」に篭ってレコーディングした、〝今〞の感情をストーレートに表現した。サツキはSustainableな衣料を目指す「75Clothes」も展開。音と服で毎日を暮らす。

linktr.ee/scof75

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