MUSIC 心地よい音楽を。
今月の選曲家 寺尾紗穂January 13, 2017
January.13 – January.19, 2017
Saturday Morning

シンプルなギター、物憂く、でも力のある声。学校に行かない少年、ブランドものに身を固める少女、死んだあの子、厳しい時代を生きたおばあちゃん。歌うたいの眼差しは、鋭く、優しい。同アルバムの「きゅびずむ」で、江戸の情緒香るような不思議な高揚感を伝えて、音楽関係者の度肝をぬいた新星折坂くんが見てるのは、やっぱり「今」なんだ、とこの曲で分かる。昔を見る人は、今を見る。小難しくも暗くもない。ただただ、懐かしい風のようだ。土曜の朝この曲をかけたら、きっと大きく窓を開けたくなるだろう。
アルバム『あけぼの』収録。
アルバム『あけぼの』収録。
Sunday Night

クラシックからは遠ざかったけれども、今も好きでたまに弾きなおすのが「森の情景」「子供の情景」といったシューマンの小品。高校時代ピアノの発表会用の曲はショパンが多かったが、最後にどうしても弾きたかったのがこの曲。第一楽章を弾いているときは、大きな漆黒の闇とそこに輝く星が見えて、そのまま魂が宇宙空間にたゆたっているようなイメージ。最終楽章にも、シャンソンみたいな切ないコード進行が出てきて、ドキドキしながら弾いていたのを覚えている。キーシンの演奏は、速すぎず、抒情たっぷり。日曜の夜、ウイスキーのロックをベッドの枕元に置いて、大の字に寝て天井仰ぎながら聞きたい。二日酔い? もちろんしない程度に。
アルバム『Evgeny Kissin -The Complete RCA & Sony Album Collection』収録。
アルバム『Evgeny Kissin -The Complete RCA & Sony Album Collection』収録。
シンガーソングライター、エッセイスト 寺尾 紗穂

1981年、東京生まれ。2006年に『愛し、日々』でソロデビュー。セカンドアルバム『御身』は坂本龍一、大貫妙子らから高い評価を得た。大林宣彦監督作品『転校生 さよならあなた』や、安藤桃子監督『0.5ミリ』(安藤サクラ主演)の主題歌を担当した他、 CM(資生堂、ユニクロ、出光など)、文筆の分野でも活躍中。著書に『評伝川島芳子 男装のエトランゼ』(文春新書)、『原発労働者』(講談社現代文庫)、『南洋と私』(リトルモア)などがある。現在は文芸誌「すばる」(集英社)で「あのころのパラオをさがして」、「ウェブ平凡」(平凡社)で「山姥のいるところ」、「ウェブ本の雑誌」(本の雑誌社)で「私の好きなわらべうた」、「ウェブ花椿」(資生堂)で「銀座時空散歩」のほか「高知新聞」でのエッセイ執筆など連載多数。最新アルバムは日本各地で歌い継がれてきた“わらべうた”をリアレンジした2016年リリースの『私の好きなわらべうた』。