LIFESTYLE ベターライフな暮らしのこと。
三國万里子さんが大切にしている、ひとりの時間。ME TIME 私だけの、ひとりの時間。November 06, 2022
趣味や好きなことに没頭したり、心の奥にある内なる声と向き合ったり。自分のための「ひとりの時間」をしっかりとつくり、楽しむことは、ベターライフを送るために大切なこと。2022年10月20日発売の特集「私だけの、ひとりの時間」から、ニットデザイナー・三國万里子さんの自分だけの時間の過ごし方を紹介します。
人形の着せ替え遊びをする。
自分だけの"かわいい"に浸る、ひととき。
ニットデザイナーとして活躍する三國万里子さん。プライベートでひとりの時間を過ごすときも、没頭するのはやはり手仕事だそう。最近、ハマっているのが人形の服作り。19世紀後半から20世紀初頭のビスクドールや、ロシアの作家が作った小さな人形たちを前に、どんな服を着せてあげようか考えるのが、今、一番の楽しみになっている。
「子どもの頃、よく人形遊びをしていたのだけど、好みの服で着せ替えができないのがすごく残念で。布があってもまだ針と糸の使い方がわからないし、技術もないため作ることができない。忙しい家族に頼むこともできず、お人形の服を集めたいというのは憧れに終わっていたんです」
それから数十年。人形とはすっかり離れた生活をしていたが、2021年秋におかっぱ頭の子に出会い、あっという間にのめり込んでいった。
「きっかけはTwitterで楽しそうにぬいぐるみをアップしている人がいたこと。大人になっても人形遊びをしていいのだと知り、自分もやりたいと思ったんです。それで私ならどんなものが欲しいか探しているうちに、1920年代のお人形を見つけました。経年でボロボロになっていたお洋服を脱がせて『今の私なら、この子にいい服を作ってあげられる!』と気づいたときのときめきといったら。そこからお人形もどんどん増えていきました」
息子が大きくなり、ひとりの時間を取ることは、さほど難しいことではなくなった。仕事として編み物をしている時間も基本的にはひとりだ。それでも、人形の服を作る時間は、三國さんにとってなくてはならないものだという。
「手を動かしている時間は、シェルターに入っている感じがします。編み物をするときも、素材を使って自分がそこに入っていく感じ。現実ではままならないことや辛いこともありますが、それが素材と一緒に吸われて消化されるイメージです。お人形の服作りも同じように消化する感覚はあります。ただ、やっぱり一番は、できたものがかわいいということ。自分でもかわいさにびっくりすることがあり、他愛ないと思いながらも、かわいいというのは救いになる。また、仕事と決定的に違うのは再現性を気にしなくていいことですね。編み図もデザイン画も描きません」
人形の服作りは、仕事の作品が一つ終わったら作っていいと決めている。そして、10体近くいる人形たちに季節ごと1着ずつ制作。人形一人一人の職業やプロフィールを考え、少しずつ集めたアンティークの端切れやハンカチを使って、彼女たちに似合う服装を仕上げていく。それは他者が入り込む余地のない、ひとりきりの遊びである。
「純粋な楽しみで、見せる必要もない。この子たちと私がよければそれで100%OKな自分だけの世界です。お母さんたちが身の回りにある素材で、家事や仕事の合間などを使って作る”おかんアート”みたいなもの。日々の暮らしにちょっとしたクリエイティブのようなものがあると、気持ちがちょっとウキッとします」
人形たちの生活を想像しながら、ひとりきりで、自分を喜ばすためだけの”かわいい”を作り出す。そこには仕事の楽しさとはまた違った、かけがえのなさが宿っている。
photo : Ayumi Yamamoto edit & text : Wakako Miyake
※『&Premium』No. 108 2022年12月号「ME TIME / 私だけの、ひとりの時間」より