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極私的・偏愛映画論『やかまし村の春・夏・秋・冬』選・文/星谷菜々(料理家、ワインエキスパート) / December 20, 2016

This Month Themeおいしいおやつに出合う。

星谷菜々(料理家、ワインエキスパート)

スウェーデンの伝統菓子、ペッパーカーカの愛らしさに心惹かれて。

 スウェーデンで暮らす友人がInstagramに上げる写真は、まるで妖精が棲んでいるような童話の世界。景色を鏡のごとく映し出す湖、神秘性溢れる銀世界、小花が揺れる草原……。そう、このやかまし村の情景と重なる。友人は日本に帰国しても「湖が、森が恋しい」と遠くを見つめ、用件を終えるとぱっと舞い戻ってしまう。彼女のノスタルジアは向こうにあるのだ。

 そんな友人からスウェーデン独自の家庭菓子の話を聞いたことがある。仔牛が産まれたばかりの濃厚な乳でのみ作られる、農家にとって特別なプリンのこと。11月にいただくグースのデザートは、黒パンを使ったアップルクランブルが定番だということ。地産を大切にしたのどかな風習は、想像しただけで心がほころぶ。けれど決して裕福ではなかった時代に生まれた堅実な文化だとも話してくれた。

 この映画で描かれるクリスマスの伝統料理からもそれは伝わってくる。大きなパンにソーセージ、アーモンド入りのおかゆなど、どのごちそうも滋味深く、厳粛な祈りを感じる。そして子ども達がハートや動物の型でくり抜くペッパーカーカ(ジンジャーブレッド)の愛らしいこと! パリッと焼き上がったら、ツリーのオーナメントにも、冬の保存食にもなるのだろう。台所には歓びの湯気が立ちのぼり、とても豊かに映る。スウェーデンが心の故郷となった彼女の気持ちが、すこしわかったような気がした。

 来年は友人を訪ねてスウェーデンへ遊びに行くつもり。リアルやかまし村で素朴なおやつに出合える日を楽しみに。

illustration : Yu Nagaba
『サイダーハウス・ルール』『ショコラ』などを手がけたラッセ・ハルストレム監督が故郷のスウェーデン童話を映像化した作品。スウェーデンの大自然の中でのびのび元気に暮らす様子が、子どもたちの目線で描かれています。大人たちのおおらかなほったらかしぶりも素敵。北欧映画ならではの生活道具やファッションもかわいいので何度観ても飽きません。
Title
『やかまし村の春・夏・秋・冬』
Mer om oss barn i Bullerbyn
Director
ラッセ・ハルストレム
Screenwriter
アストリッド・リンドグレーン
Year
1987
Running Time
86分
『やかまし村の春・夏・秋・冬』
価格 ¥4,700+税
発売元・販売元 株式会社KADOKAWA

apron room主宰 星谷 菜々

女性誌にて家庭料理やお菓子を提案するほか、自身のアトリエ「apron room」にて、不定期でお菓子教室やショップ、イベントを開催している。詳細はインスタグラム@apron_roomか、Webサイトwww.apron-room.comにて確認を。 著書に『BAKE 焼き菓子の基本』(成美堂出版)、『フルーツスイーツダイアリー』(グラフィック社)など多数。

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