MUSIC 心地よい音楽を。
土曜の朝と日曜の夜の音楽。 今月の選曲家/松尾潔 vol.2September 10, 2021
September.10 – September.16, 2021
Saturday Morning

意外性を備えたひとが生みだす物語が好きです。イメージの落差に惹かれると言ってもいいかもしれません。心やさしきならず者、とか、非情な聖女、とか。音楽の世界にもそれを求めてしまうところが、どうやらぼくにはあるようです。人気テレビ番組『ソウル・トレイン』のダンサーたちを核とするディスコグループだったシャラマーが、音楽的進化(深化かも)を遂げた1981年のこのバラードなんて最たるもの。シャラマーのレーベルの後輩にあたるベイビーフェイスが15年後にカバー、オリジナル以上のヒットを記録したことも、R&Bファンにはよく知られています。でもシャラマーのメンバーがそのカバーバージョンに参加したことは、なぜかあまり語られる気配がありません。
アルバム『Three For Love』収録。
アルバム『Three For Love』収録。
Sunday Night

シャラマーの歩みをたどってみると、EXILEのそれとの相似点に思い至りました。彼らもまたテレビ番組のダンサーという出自の人物を起点とするグループです。ぼくが2008年に提供したこの曲は、日曜の夜の情景を直截に描いた歌詞から始まります。バイタリティあふれる男性的なイメージで人気を博してきた彼らに、しっとりとした曲調と女ことばを提案したのは、ひとえに意外性を創出したかったから。ここで描いた愛のかたちは、リリース時点ですでにレトロな印象がありました。もっと言うなら、昔話であって欲しいという気持ちが作者のぼく自身にもあった。でもいまでも日曜の夜が降りてくると、この曲の登場人物たちが立ちあがるような瞬間が不意に訪れるのです。やはりというべきか、男女の関係はいつもままならない。いや、男女にかぎらず、と言い添えておきましょう。
アルバム『EXILE BALLAD BEST』収録。
アルバム『EXILE BALLAD BEST』収録。
音楽プロデューサー、作詞家、作曲家 松尾 潔

1968(昭和43)年、福岡市生まれ。音楽プロデューサー、作詞家、作曲家。MISIA、宇多田ヒカルのデビューにブレーンとして参加。その後、プロデューサー、ソングライターとして、久保田利伸、平井堅、CHEMISTRY、SMAP、東方神起、JUJU等に作品を提供。楽曲の累計セールス枚数は3000万枚を超す。日本レコード大賞「大賞」(EXILE「Ti Amo」)など受賞歴多数。『松尾潔のメロウな夜』(NHK-FM)、『関ジャム完全燃SHOW』(テレビ朝日)などに出演中。今年2月、初の長編小説『永遠の仮眠』(新潮社)を上梓した。
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『永遠の仮眠』(新潮社)
「松尾潔のメロウな夜」(NHK-FM)