松尾潔 – 音楽プロデューサー、作詞家、作曲家 | & Premium (アンド プレミアム)

音楽プロデューサー、作詞家、作曲家 松尾潔


September 17, 2021 土曜の朝と日曜の夜の音楽。 今月の選曲家/松尾潔 vol.3

September.17 – September.23, 2021

Saturday Morning

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Title.
Aiming At Your Heart
Artist.
The Temptations
今年2月に初めての長編小説『永遠の仮眠』を上梓しました。主人公を音楽プロデューサーと設定したせいで、「自伝的小説」と紹介されることが多いのですが、あくまで物語はフィクションです。とはいえフィクションにはリアリティを与えたい。虚実ないまぜというのかな。そのために、ひとつまみの事実をまぶしたりはしています。たとえば、主人公が妻とランチを食べる場面で流れるBGMのプレイリストは、物語の舞台となる2011年当時、ぼくが実際に自宅で愛聴していたものです。これはその1曲。テンプテーションズは、ソウルミュージック界の王様的なグループ。代表曲「My Girl」は、プレティーンの少年少女を主役に据えた映画のタイトルにも引用されました。ソウルは概して夜のイメージが圧倒的につよいですが、この曲はいつもやわらかな陽だまりを思い起こさせます。プロデュースを手がけているのがトム・ベルというのが、その最大の理由でしょう。フィラデルフィアのソウルシーンきってのスタイリストです。
アルバム『The Temptations』収録。

Sunday Night

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Title.
Breaking Us In Two
Artist.
Joe Jackson
1983年の冬、高校受験が終わったその足で試験会場からタワーレコードに直行、この曲が収められたアルバムを買ったことをよく憶えています。ヒットシングルの「Steppin’ Out」目当てでしたが、歳を重ねるにつれ、この曲によりつよく惹かれるようになりました。とりわけ「いつも何かがぼくたちふたりを引き裂こうとしてる」というフレーズの連呼にただならぬ現実味を感じます。若いころは多少の危険を冒してでも目指す場所に飛び込んでいくことがつよさだと思っていたけれど、大人になったいまは、斥力に抗うことの大切さを日々痛感しているからでしょう。ところで、この曲はLPのB面Day Sideの1曲目。でも購入時から夜の印象なのはずっと変わりません。先日フードライターの白央篤司さんが「朝っぽい味噌汁と夜っぽい味噌汁、あるよね」とつぶやかれていたのを思い出します。「ぽさ」はおそらく自分のなかにある。
アルバム『Night And Day』収録。




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September 10, 2021 土曜の朝と日曜の夜の音楽。 今月の選曲家/松尾潔 vol.2

September.10 – September.16, 2021

Saturday Morning

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Title.
This Is For The Lover In You
Artist.
Shalamar
意外性を備えたひとが生みだす物語が好きです。イメージの落差に惹かれると言ってもいいかもしれません。心やさしきならず者、とか、非情な聖女、とか。音楽の世界にもそれを求めてしまうところが、どうやらぼくにはあるようです。人気テレビ番組『ソウル・トレイン』のダンサーたちを核とするディスコグループだったシャラマーが、音楽的進化(深化かも)を遂げた1981年のこのバラードなんて最たるもの。シャラマーのレーベルの後輩にあたるベイビーフェイスが15年後にカバー、オリジナル以上のヒットを記録したことも、R&Bファンにはよく知られています。でもシャラマーのメンバーがそのカバーバージョンに参加したことは、なぜかあまり語られる気配がありません。
アルバム『Three For Love』収録。

Sunday Night

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Title.
Ti Amo
Artist.
EXILE
シャラマーの歩みをたどってみると、EXILEのそれとの相似点に思い至りました。彼らもまたテレビ番組のダンサーという出自の人物を起点とするグループです。ぼくが2008年に提供したこの曲は、日曜の夜の情景を直截に描いた歌詞から始まります。バイタリティあふれる男性的なイメージで人気を博してきた彼らに、しっとりとした曲調と女ことばを提案したのは、ひとえに意外性を創出したかったから。ここで描いた愛のかたちは、リリース時点ですでにレトロな印象がありました。もっと言うなら、昔話であって欲しいという気持ちが作者のぼく自身にもあった。でもいまでも日曜の夜が降りてくると、この曲の登場人物たちが立ちあがるような瞬間が不意に訪れるのです。やはりというべきか、男女の関係はいつもままならない。いや、男女にかぎらず、と言い添えておきましょう。
アルバム『EXILE BALLAD BEST』収録。




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September 03, 2021 土曜の朝と日曜の夜の音楽。 今月の選曲家/松尾潔 vol.1

September.03 – September.09, 2021

Saturday Morning

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Title.
September In The Rain
Artist.
Julie London
福岡育ちのぼくが上京して初めて知った東京の事情は少なくありません。そのひとつが、秋の雨の長さ。秋霖とはこのことかと。極端に言えば、西日本の梅雨にあたるのが東日本の秋雨なのかもしれません。北日本はその傾向がもっと顕著だとも聞きます。ところで、2013年に由紀さおりさんのジャズアルバムをプロデュースしました。当時の彼女の興味はジャズスタンダードを美しい日本語で歌うこと。そのとき取りあげた曲のひとつがこれ。日本のジャズの先駆的存在である渡辺晋とシックス・ジョーズのテーマとしても知られる名曲に、ぼくが日本語詞を付しました。といっても、スタジオでの由紀さんとの語らいを書き起こした内容なんですけどね。ここでは、ぼくの偏愛するジュリー・ロンドンの滋味深いバージョンを選んでみました。ジュリーが人生の多くを過ごしたロサンゼルスでは、9月に雨が降ることはきわめて稀です。
アルバム『Calendar Girl』収録。

Sunday Night

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Title.
So Sad The Song
Artist.
Gladys Knight & The Pips
昏くてかなしい歌こそ、日曜の夜に聴くことをおすすめします。なぜなら、カラダもココロもいちばん整った状態で自分の時間を過ごせるのは日曜の夜というひとが多いから。ちがった言いかたをするなら、日曜の夜でもかなしい歌を聴く余裕がないひとは、生活の設計を見直したらいいのかもしれません。もちろん、「音楽はハッピーな気分にさせてくれるものにかぎる」というひとがいることも、ぼくは知っていますよ。じゃあ、なぜかなしい歌を聴くことをつよくお勧めするのか。それは、できるだけ実生活にかなしみの理由を侵入させないようにするためです。かなしみを遠ざけるためには、かなしみの何たるかを知らねばならない。かなしい歌は、病原体の病原性を無毒化あるいは弱毒化したワクチンのようなもの。音楽はそういう点にも優れた、けっこう多機能なアートフォームだと思うのです。注射ほど痛くはないし。そして、かなしみの先にはかならず光が用意されている。
アルバム『Pipe Dreams』収録。




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音楽プロデューサー、作詞家、作曲家 松尾潔

1968(昭和43)年、福岡市生まれ。音楽プロデューサー、作詞家、作曲家。MISIA、宇多田ヒカルのデビューにブレーンとして参加。その後、プロデューサー、ソングライターとして、久保田利伸、平井堅、CHEMISTRY、SMAP、東方神起、JUJU等に作品を提供。楽曲の累計セールス枚数は3000万枚を超す。日本レコード大賞「大賞」(EXILE「Ti Amo」)など受賞歴多数。『松尾潔のメロウな夜』(NHK-FM)、『関ジャム完全燃SHOW』(テレビ朝日)などに出演中。今年2月、初の長編小説『永遠の仮眠』(新潮社)を上梓した。


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