LIFESTYLE ベターライフな暮らしのこと。

自分が選んだ好きなものに囲まれて暮らす。
『TRUCK』オーナー・唐津裕美さんの暮らし方とセンス_後編April 11, 2022

2022年3月19日発売の『&Premium』の特集は「センスがいいって、どういうことですか
」。さりげなく素敵で、背伸びをしなくても洗練されている。漠然としているけれど確かに何かが違う“センスがいい”ということについて、ライフスタイルからファッション、カルチャーまで、探ってみた一冊です。ここでは、『TRUCK』オーナー・唐津裕美さんのセンスのいい暮らし方を、「よく行くところ」や「わたしをつくった事柄」からひもときます。

この記事は後編です。前編はこちらから。

4.よく行くところ。 Favorite Place

それまで狭かったアトリエを新しく建てて、広い空間に。唐津さんを形作っているものが わかる、雑多なものたちで埋め尽くされている。仕事をする上での刺激も与えてくれる。TRUCK 黄瀬徳彦 唐津裕美
それまで狭かったアトリエを新しく建てて、広い空間に。唐津さんを形作っているものがわかる、雑多なものたちで埋め尽くされている。仕事をする上での刺激も与えてくれる。

まだ整理している最中だという、唐津さんのアトリエ。倉庫に眠っていたものや仕入れたものなどが、所狭しと並んでいる。「ものを選ぶときは素材と質感が決め手。革や木、鉄など味が出てヤレた感じのものが好きです。だから、いろいろな国や年代のものがありますが、狙ったわけでもないのに統一感があります」

5.私をつくった事柄 。 Past Experiences

101_p038-043_暮らし20世紀を代表するアメリカン・リアリズムの画家、アンドリュー・ワイエスの画集。「影響を受けたまではいかないかもしれませんが、配色や風景が好きで見入ってしまいます」方とセンス_唐津さん_P09 TRUCK 黄瀬徳彦 唐津裕美
20世紀を代表するアメリカン・リアリズムの画家、アンドリュー・ワイエスの画集。「影響を受けたまではいかないかもしれませんが、配色や風景が好きで見入ってしまいます」
1984年から2000年くらいまで買っていた、雑誌『オリーブ』。この束以外も、まだたくさ ん残っている。「この雑誌の持つ世界観が好きでした。ファッションページは熟読」TRUCK 黄瀬徳彦 唐津裕美
1984年から2000年くらいまで買っていた、雑誌『オリーブ』。この束以外も、まだたくさ ん残っている。「この雑誌の持つ世界観が好きでした。ファッションページは熟読」
音楽はブルースが好き。好きな曲をオムニバスで集めたレコードとCDは、『TRUCK』20 周年記念で発売されたもの。写真とイラストは唐津さんによる。店で購入できる。TRUCK 黄瀬徳彦 唐津裕美
音楽はブルースが好き。好きな曲をオムニバスで集めたレコードとCDは、『TRUCK』20 周年記念で発売されたもの。写真とイラストは唐津さんによる。店で購入できる。
1 回の旅に 1 冊。旅に出るときは〈マルマン〉のリネンカバーのスケッチブックとともに。 びっしりと描き込まれ、スクラップされた記録が数十冊、アトリエの棚に並んでいる。TRUCK 黄瀬徳彦 唐津裕美
1 回の旅に 1 冊。旅に出るときは〈マルマン〉のリネンカバーのスケッチブックとともに。 びっしりと描き込まれ、スクラップされた記録が数十冊、アトリエの棚に並んでいる。

他人に惑わされず、 自分なりの基準を持つ。

ここのところよく行く場所になっているのは、同敷地内に作ったアトリエだ。

「フリーのイラストレーターとして仕事して、『トラック』を立ち上げてからは、とにかく家具屋のことで走り続けてきました。でも、 娘も中学生になってやっと自分の時間を持ちたいと思えるように。これまで培った経験を生かして、手を動かすものづくりをしたいです。アトリエでは、それまで倉庫にしまいっ放しだったものを取り 出して、整理している最中。ここは自分の好きなもの、刺激を受けるものに囲まれた空間です」

唐津さんと話をしていて気づくのが、「自分の好き」という言葉が頻繁に出てくること。 それは彼女自身を形作っている言葉でもある。センスを語る上でも、きっと彼女が生きる上でも、絶対的ともいえる価値観だ。

「センスについてはよくわからないけれど、自分の好きなものをいろいろと経験して集めて、自分らしい暮らしをしているうちに少しずつ育っていくものではないでしょうか。道端に落ちている錆びた針金、拾ってきた石ころや形のきれいな流木もお気に入りは同じ。解体される病院や車の整備工場からもらってきた棚やロッカーなど、名もない古いものを引き継いで使うこともあります。私は好きか嫌いかがはっきりしているので、選ぶのはとても早い。迷うことはないですね」

なので、おじさんが一人でやっているような、入るのにためらう雑多な店やホームセンター、百円ショップからでも、好きなものを見つけ出す自信があるという。

そんな唐津さんがもっとも影響を受けたのが、高校生から大学生時代に買っていた雑誌『オリーブ』。どのページが、というより雑誌全体が好きだったそう。

「他の雑誌はお気に入りのページだけ切り抜いていたんですが、これは丸ごと好きなので、雑誌の形のまま取ってあります。高校生の頃は熟読してクレジットを暗記するほどでした」

それから大人になり、旅にも出るようになり、さらに見識は深まっていった。

「旅は、いつもと違う景色やものに出合う楽しみがあります。1回の旅につき1冊のスケッチブックを持って行き、イラストや日記で1冊埋めるのをノルマにしていました。最近は予定が詰まりすぎてスケッチブックが真っ白で帰ることも多かったので、何の予定もない旅がしたいですね」

その旅先のフリーマーケットや 蚤の市で買ったものは、リビングの棚に収まっている。

人の評価に左右されず、自分の基準をしっかりと持つ。それは自分を信じる強さでもある。

「私の好みではないですが、フリフリの服が好きで、その好きを貫いているならば、それはセンスがあると思います。デザイナー名やブランド名に振り回されず、何風でもなく人の真似でもなく、自分が選んだ好きなものに囲まれて暮らす。それが心地いい暮らしであり、センスにつながるのかもしれません。私は、そこに犬と猫がいればさらに幸せです」

唐津裕美 『TRUCK』オーナー
Hiromi Karatsu

大阪生まれ。大阪芸術大学を卒業後、デザイン会社勤務を経てイラストレータ ーに。1997年に黄瀬徳彦さんとともに『TRUCK』をオープン。2009年、建物、 樹々、レンガ塀などすべてを一から考えた、大阪市旭区の現在の場所に移転。
https://www.truck-furniture.co.jp/

photo : Yumiko Miyahama edit & text : Wakako Miyake

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