FOOD 食の楽しみ。
料理家・飛田和緒さんのお取り寄せ。
基本の調味料で日々を豊かに。 料理上手たちの、お取り寄せのある暮らしJanuary 22, 2023
2020年12月20日発売の本誌特集は『真似をしたくなる、お取り寄せ』。料理家をはじめ食の分野で活躍する人たちは、どんなふうにお取り寄せを使いこなしているのだろう。 味わいはもちろんのこと、作り手や、ともに分かち合う仲間との交流も大切に。身近で手に入る食材も上手に組み合わせながら日々の食卓を豊かに楽しむ6人に、おすすめの取り寄せリストと料理を教わった企画「料理上手たちの、とっておきのお取り寄せのある暮らし」から、ここでは料理家・飛田和緒さんを紹介します。
いつでも手に入る安心と 新しいものに触れる喜びと。
前日夜から激しく降っていた雨がやみ、雲間から覗いた青空から注ぐ光が、冬の水平線を照らし始めた。
その変化を眺めているだけでいくらでも時間を過ごせそうな海辺の町の高台に、料理家・飛田和緒さんの暮らす家がある。見晴らしのいいダイニングの奥にあるオープンキッチンで仕事の料理と家族の食事を作り、10年の歳月が流れた。「ここにいると、世の中で起こっていることをつい遠くに感じてしまうんです」と飛田さん。世の喧騒を忘れさせる静寂と安らかさが、温かな空間を満たしている。
山や畑で穫れる地場野菜の直売所があり、近隣の港で揚がった魚を扱う鮮魚店があり。そんな町で作る料理は年々、素材そのものの持ち味を立てる素直なものに変わっていったという。飛田さんの頼もしい相棒となるのが、愛用している基本の調味料。塩、醤油、出汁を取るための材料は、料理家として過ごす日々の中で出合い、定番となっていったものを産地から取り寄せている。
「国内でも海外でも、旅先には必ずその土地の塩があるので、いろいろ試しました。『粟國の塩』はまろやかで辛味の角が立たないのに、振ればちゃんと存在感がある。『大久保醸造店』の醤油は、松本出身の料理スタイリストから教えてもらって惚れ込み、それからずっと注文しています。あご出汁の味を知ったのは30代前半の頃、九州出身の編集者の紹介がきっかけだったかな? 当時住んでいた東京の近くのデパートでたまたま九州フェアをやっていて、そこで初めて買って……。魚くささがまったくなく上品で、どんな料理にも合うんです」
惚れ込んで使い続けるのは「昔ながらのものが多い」という飛田さん。だが、時には新しい風も吹く。魚醤好きの飛田さんに知人が紹介した兵庫県産の魚醤「あかしの魚笑」は、瀬戸内海で獲れるイカナゴが原料。岐阜県飛騨地方産の「銀の朏(みかづき)」はコシヒカリから生まれた新品種の米で、スーパーマーケットの店頭で目にして以来、取り寄せを続けている。
「魚醤は地域ごとにいろんな魚で造られているようですが、この魚醤はカタクチイワシのものよりも風味がしっかりしている印象ですね。『銀の朏』は粒が大きくてもっちりしていて、久しぶりにおいしいお米を食べたなぁと思いました。とくに新米の時季にはさまざまな産地のお米が紹介されますから、試してみるのもいいんじゃないでしょうか」
料理家にとって、かつては季節を先取りする撮影のために魚や野菜を入手する重要な手段だったお取り寄せ。子育てに忙しかった時期は、思うように買い物に行けない不便さやストレスを通販が解消してくれた。今は必要とするものだけでなく、新しい味に触れ、楽しむための日常的なツールに。味にこだわりを持つ仕事仲間や友人たちからもたらされる情報に胸躍らせつつ、日々を過ごす。
「もともと、作るよりも食べるほうが好きだったりしますからね(笑)。インスタグラムを始めた頃は、おいしいものの情報が毎日たくさん流れてくるので、『私も食べてみたいなぁ』とつい釣られてしまったり。それでも、定番の調味料が安定的に手に入るのが、今の私にとっては本当に安心だし、ありがたいこと。便利な時代になったなぁと感じます」
取り寄せる際に気をつけているのは、「買いすぎないこと」。食材と同様、調味料にとっても、おいしい時期には限りがあると飛田さんは言う。
「1回で送ってもらったほうが手間がないだろうし、送料も……とついたくさん頼んでしまいがちですが、やっぱりね。少ない量で頼んで、開けたら早めに使い切ることを心がけています」
飛田和緒さんの取り寄せリスト
飛田和緒
Kazuo Hida
東京生まれ。30代より雑誌や書籍、料理番組などでレシピを提案。近刊に『仕込んで、使って、一年中楽しめる みその本』(KADOKAWA)、『塩、しょうゆ、みそで飛田式おかず』(西東社)、エッセイ集『おとなになってはみたけれど』(扶桑社)などがある。
photo : Sachie Abiko text : Michiko Otani edit : Wakako Miyake