MUSIC 心地よい音楽を。
土曜の朝と日曜の夜の音楽。 今月の選曲家/林正樹 vol.4January 22, 2021
January.22 – January.28, 2021
Saturday Morning

まだ巡り合っていない自分にとっての新しい音楽を探すには、今の世の中には便利な方法が多々あると思うが、自分は敢えてアナログな手段を好んでいる。好みのレーベルを頼りにしたレーベル買いもその一つ。例えばイタリアのペルージャ発のレーベル<EGEA>。ジャケットを見ればすぐに<EGEA>の作品だと分かる特徴的なデザイン。日本にはそれほど多く流通していない分、見つけると宝物を発見したような気にさせてもらえる。こうして出合った「Barcarola」は時が経っても愛聴し続けている作品。ウェットになり過ぎない程よいホールの響きとともに、四人の音色が溶け合いながらも、その一つ一つが歌心を大切に奏でられていることが心地よく伝わる室内楽ジャズ。フォカッチャにたっぷりとエクストラバージンオイルを浸した遅めの朝食をとりながら妄想する。ここは地中海近くの小さな街、柔らかな木漏れ陽を浴びつつ、今日は何して過ごそうか。
アルバム『Barcarola』収録。
アルバム『Barcarola』収録。
Sunday Night

キース本人の体調も、さらには用意されていたピアノの状態も悪く、開演直前に危うく中止になりかけたソロコンサート。当時29歳だったキースが悪条件の重なる中、完全即興演奏によって行われたコンサート録音が、今でも代表作と言われていることは何の因果だろうか。何か大きなヒントがそこに隠されているはずだ。ピアノの音だけ考えると決して豊かな響きとは言えないが、音楽としては完璧である。キース・ジャレットの魂全てが音楽へと昇華されていると言えよう。そのピアノ、その瞬間、その空間、シチュエーション全てがまさに一期一会のこの音楽は、46年前のちょうど今日、1月24日の夜の記録。
自分自身ライブ会場で思うようなピアノと出合えなかったとしても、ケルンコンサートでのキースを思い起こし未知なる自分が降りてくるかもしれない、そうポジティブに考えるようにしているのだ。
アルバム『The Köln Concert』収録。
自分自身ライブ会場で思うようなピアノと出合えなかったとしても、ケルンコンサートでのキースを思い起こし未知なる自分が降りてくるかもしれない、そうポジティブに考えるようにしているのだ。
アルバム『The Köln Concert』収録。
ピアニスト 、作曲家 林 正樹

自作曲を中心とするソロでの演奏や、生音でのアンサンブルをコンセプトとした「間を奏でる」などのプロジェクトの他に、小野リサ、渡辺貞夫、菊地成孔、徳澤青弦など様々な音楽家とアコースティックな演奏活動を行なっている。多種多様な音楽的要素を内包した、独自の諧謔を孕んだ静的なソングライティングと繊細な演奏が高次で融合するスタイルは、国内外で高い評価を獲得している。2021年2月公開予定の映画『すばらしき世界』(監督:西川美和)の音楽を担当。