NICHIYOHIN 暮らしを豊かにする道具。
東京・世田谷の『工芸喜頓 』へ。食卓で映える、日常の器が見つかる店。November 04, 2024
ものの背景にある物語に想いを馳せ、伝えていく。
ギャラリーショップ特有の静かな空間とは毛色が違う、軽快なジャズが流れる親しみやすい店内。古材で作られた飾り棚に視線を転じると、暮らしになじむ存在感のある器や道具が等間隔に、美しく並べられていた。取り扱っているのは、長年ものづくりをしてきた民芸の作家のものが多いという。
「セレクトの基準はプリミティブだったり、ポエティックだったり、本能的に安心感を抱くもの。手にしたときに違和感を感じない、生活をじわじわと楽しくしてくれるものに惹かれます」と、石原文子さん。世界中を旅することが好きな石原さんは、その土地固有の文化や自然、ものづくりに魅せられてきた。そうしたアプローチは、日本全国の窯元や作家に向き合うときの視座にも繋がっている。ものの美観だけではなく、土地や風土に根ざした独自の文化的な価値を伝えることも〝気構え〞として大切にしていることだ。
ふと目に留まったスリップウェアを眺め、手触りを確かめているとさりげなく作り手のことを教えてくれた。「うちの店では珍しく、30代の若い作家のもので。宮野さとみさんといって、イギリスのスリップウェアに一目惚れして、修業のために渡英した経歴がある人なんです。その経験が感覚的に生かされている、ラフで力強い作風が魅力。若々しさがありつつも、熟練の職人が作るものに負けない力があります」。やまない好奇心を携えて窯元や作家を訪ね続ける石原さん。長年、対話を重ねてきたからこそ知り得た、いくつものストーリーが心に刻まれている。それを惜しみなく伝えてくれる愛に満ちた時間は、店に訪れる人たちの日常をそっと支えている。
『工芸喜頓 』の石原文子さんに教わる、今の暮らしになじむ道具。
工芸喜頓kogei-keaton
東京都世田谷区世田谷1‒48‒10 ☎03‒6805‒3737 13:00~18:00 日月火祝休 東急世田谷線上町駅から徒歩約5 分。実店舗、オンラインショップともに、常設の展示販売が中心。通販サイト「日々の暮らし」では作家にインタビューした記事を掲載している。
石原文子Fumiko Ishihara
フランスのラグジュアリーブランドのマーケティング職を経て、民芸を軸にした器のオンラインショップ「日々の暮らし」を2011年にスタート。’13年に実店舗をオープンした。店内がいきいきとした空間になるように、グリーンや季節の花を欠かさずしつらえるのが石原さんのスタイル。
photo : Mitsugu Uehara text : Seika Yajima