INTERIOR 部屋を整えて、心地よく住まうために。
古い家を自分らしく整える。林 雄二郎、侑子さん夫妻の、人生を大きく動かした鎌倉の家と地。January 22, 2024
古さや陰影を愛おしみ、長く住み継いでいく。
家のすぐそばを歩くと、森の木々が発する深い香りに包まれる。林雄二郎さんと侑子さん夫婦が住まいの場所として選んだのは、鎌倉駅から歩いて20分ほどの山に囲まれたエリア。築65年のこの物件を見つけた8年前、ふたりの人生と住宅観に大きな変化をもたらした。
「自然と心惹かれたのが、鎌倉の古い家でした。実際に10軒ほど見に行ったうえで、庭付きのこの家を選んで。妻が認可外保育施設をやりたいという想いがあり、住居の一部を開放してやってみたら面白そう、と冗談半分で話していて」と雄二郎さん。設計はネットで見つけた建築家の宮田一彦さんにお願いしたという。
「『古民家再生』に特化して、昔の面影をなるべく壊さず、受け継いでいくスタンスに惹かれたんです。新築は家を建てたときの価値が一番高くて、時間の経過とともに価値が減少するイメージが強く、自分にとっては興味が持ちづらいところがあります。でも、家具やヴィンテージのデニムはその考え方の逆で、時を経て価値が上がっていく。日本の住宅にその考え方がないことに、違和感があったんです。それで、古い家を直しながら、住み継いでいきたいという想いが強くなっていきました」
10年間、誰にも住まれることなく放置されていた家を宮田さんに見てもらい、どのように手をかけていくのかを丁寧に話し合った。
「柱と梁はもともとあったものを残し、建具も既存のものを極力使い、設備や間仕切りなどはほぼぶち抜いて新しく作りました。壁は安くて丈夫なラワン材、床は無垢の杉板で統一感を持たせて。家の大黒柱は宮田さんから提案してもらい、格子状のデザインに。取り外し可能な棚板を取り付けて飾り棚にしています」
雄二郎さんは宮田さんの家具選びにも多いに影響を受けたそう。ピエール・ガーリッシュのチューリップチェア、ピエール・ジャンヌレのシザーチェアなど空間の至る所に名作家具が凛とした佇まいで鎮座する。
「宮田さんの家でフランスの’50~’60sの家具を目にして、日本の家との相性がとてもいいと感じて。僕も気に入ったものを迎え入れました。そういうことに夢中になっているうちに銀行員を辞めて、歴史的建造物を守り継ぐ活動を仕事にしました」
侑子さんも笑みを浮かべて話す。
「私は四季折々に変化を見せる庭の景色や障子越しの柔らかな光を見つめるのが好き。保育室に来る子どもたちは、庭をぐるぐると駆け回っています。そんな光景を眺める時間がとても愛おしいです」
林 雄二郎/林 侑子会社役員/保育士
雄二郎さんは、歴史的建造物を活用したホテル『RITA 戸隠』などを地方で運営。侑子さんは、子どもの個性に寄り添う保育をしている。
photo : Tetsuya Ito illustration:Shinji Abe(karera) edit & text : Seika Yajima