『川添い』が届けるベターライフブックス。今週の本『国境の南、太陽の西』April 24, 2025

This Month Theme”魅力的な店主”に出会える本。

Book of the Week『国境の南、太陽の西』村上春樹 著（講談社）

この小説の主人公である僕は、青山でバーを経営している。そこへ、『BRUTUS』の記事を読んでやってくる、昔の幼馴染。美しい彼女にむかって僕は言う、「ねえ島本さん、ここはお店なんだ。お店はみんな来たいときに来て、帰りたいときに帰っていくんだよ。僕はただ人々が来るのを待っているだけなんだ」。専業の小説家になる前は店を経営していたという著者の、実際の経験に裏打ちされた哲学が顔を出すシーンが好きだ。私の場合、これまでの人生、どこかに出かけ、人に会い、刺激を受ける、言うなれば「行く」に重きを置いてきた。しかし、店を持つことで最近は「待つ」が増えた。時折訪れる誰もいない時間、いつもこの言葉を思い出す。