MUSIC 心地よい音楽を。

土曜の朝と日曜の夜の音楽。 今月の選曲家/アン・サリー vol.4January 25, 2019

January.25 – January.31, 2019

Saturday Morning

Title.
秋の手紙
Artist.
Ann Sally
毎日刻々と過ぎていく時間の中繰り返すルーチン。一歩外に出ると社会人として求められる常識ある振る舞い。追われるように慌しく過ぎる日々の中で、ふと本当の意味で生きるとはどんなだろうと考える。自分が本当にしたいこと、行きたいところ、本当に歌いたいはうたとは……。ある日、そんなことを考えながらピナ・バウシュの踊る映像を観ていた時、背景に流れる音楽に耳を奪われた。澄んだギターの音色と、朴訥としながらも心の震えを映した低い歌声。かつて韓国のとても難しい時代背景の、美しく寂しい秋の情景を歌った、何とも言えない寂寥感に胸が締め付けられた。そして、言葉と国境を越えた普遍的なメッセージを身体全体で表現するピナの美しい姿に、問うていた答えを見た気がした。
アルバム『Bon Temps』収録。

Sunday Night

Title.
Bridge Over Troubled Water
Artist.
Roberta Flack
どうしてもあれこれ考えが渦巻いて眠れない夜がある。昨日の後悔や明日の不安が堂々巡りして、考えても答えが出ず、考えることを止めようとするほどにぐるぐるは加速していく。リラクゼーション法や呼吸法などあれこれ試しても何の効果もない。仕方がないからそんな時には全て諦めて、一層ぐるぐるに身を任せることにしてしまう。そして深夜のラジオ番組を聴く。端正な語り口がとても好きだ。暗闇の中で聞く深淵なテーマのインタビューに涙する。これは夜を徹することになるのかなと思った時に、この曲がかかった。数多あるカバーの中で元々一番好きだったけれども、白みかけた部屋の中で眠れずに聴いたこの日ほど胸に突き刺さるような感慨は無い。世界中のあらゆる眠れぬ者のために、こんな美しい音楽があることに心から救われる想いがした。
アルバム『Quiet Fire』収録。
&Music / 土曜の朝と日曜の夜の音楽 Ⅱ

&Music / 土曜の朝と日曜の夜の音楽 Ⅱ

音楽好きの“選曲家”たちが月替わりで登場し、土曜の朝と日曜の夜に聴きたい曲を毎週それぞれ1曲ずつセレクトする人気連載をまとめた「&Music」シリーズの第2弾。 23人の選曲家が選んだ、週末を心地よく過ごすための音楽、全200曲。 本書のためだけにまとめた、収録作品のディスクガイド付き。

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シンガーソングライター アン・サリー

2001年『Voyage』でアルバムデビュー。2003年『Day Dream』『Moon Dance』のロングセラー以後、待望の最新CD『Bon Temps』を含む、多数アルバムを発表。また数々のCMや映画の主題歌を歌唱し、日本全国、アジア地域で演奏活動を広げるシンガー&ドクター。暮らしの中で緩やかに芽吹いた日々の想いは、ほころぶ花のように芳醇な歌声と、花蜜の抽出された名曲群へと昇華され、幅広い層に届けられている。

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