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選・文 / 汽水空港 / May 13, 2021 本屋が届けるベターライフブックス。『牧野富太郎 なぜ花は匂うか』牧野富太郎 著 (平凡社)

This Month Theme花や緑とともに暮らしたくなる本。

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「日本植物学の父」といわれる牧野富太郎。この人物の植物への尋常ではない愛はどこから湧いていたのか。特定の樹木や草木だけではない。その愛はあらゆる植物全般へ注がれている。ひとつひとつの植物を描写する様はまるで恋に落ちた少年のようだ。「何故あんなに綺麗なのでしょう」「抱きしめたい」等と語り、「あなた方はただなんの気なしに見過ごしていらっしゃるでしょうが-」と、植物の魅力に気が付かぬ者を非難する程だ。実際、恋に落ちていたようで、彼は自身を「植物の愛人」と呼ぶ。夏、草木が最も繁茂する季節には、世界を「無上の楽園」と形容している。偉大な賢者に対して大変失礼ではあるが、変態ではないかと思いながらこの本を読んだ(褒めてます)。


選・文 / 汽水空港 / May 06, 2021 本屋が届けるベターライフブックス。『つち式』東 千茅 著・発行人

This Month Theme花や緑とともに暮らしたくなる本。

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奈良県・大宇陀で里山生活を謳歌する東千茅氏の生活と哲学を綴ったリトルプレス。掲載されている田んぼや畝、空、植物の写真だけ見れば、どこかで見たことのある長閑な田舎の風景として映るだろう。しかし、その風景の中に生きる著者の実生活は、土や異種の征服、そして殺戮の絡まり合いだ。著者はそれらすべてをひっくるめて「十全に生きる」ことの愉悦として、征服する悦びを感じる自身の感情さえ曝け出す。ニワトリたちに与える虫を日々せっせと運び、深まる愛情。そこには「かわいい」と「うまそう」が同居している。人間や風景のある一面だけを切り取ることなく、生命のすべてを味わい尽くし謳歌する著者の姿は、読む人を「異種共生」の海へ飛び込ませる魅力を放つ。


選・文 / 汽水空港 / April 29, 2021 本屋が届けるベターライフブックス。『【食べる】 【つかう】 【あそぶ】 庭にほしい木と草の本 散歩道でも楽しむ』草木屋 著 (農山漁村文化協会)

This Month Theme花や緑とともに暮らしたくなる本。

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「人と植物の調和した暮らし」をテーマに苗木の生産販売を行う草木屋夫婦が営む自由保育「小さな畑のおうち園」。小さな森のような園内に生える51種の草木の特徴とともに、その枝葉の性質を利用して作るお茶、ジュース、染め、おもちゃ、籠等などを紹介する。名を知らぬ草木に秘められた楽しさを引き出し、遊びと学び、生きる糧が渾然一体となった園内の様子に、大きなおともだちとして「わたしも通わせてほしい!」と願い出たくなる。草木や咲く花への関心を開かせ、生活の中でそれらをどのように取り入れようかと想像せずにはいられない。都市、地方を問わず、読む人に「野の視点」を芽吹かせる一冊。


選・文 / 汽水空港 / April 22, 2021 本屋が届けるベターライフブックス。『植物と叡智の守り人』ロビン・ウォール・キマラー 著 (築地書館)

This Month Theme花や緑とともに暮らしたくなる本。

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芳香を放つスイートグラス、森の中で甘く滴り落ちるメープルシロップ、相互に長所を補完しあい成長するトウモロコシ、カボチャ、インゲン豆の関係性、老若男女の舌を喜ばす各種ベリー類等、著者が幼い頃から親しんできた植物の特性を魅力たっぷりに語り、「この世界は自然からの潤沢な贈り物で満ちている」というネイティブアメリカンに伝わる神話を現代人にも納得させる。そしてそれぞれの植物、動物に潜む読まれるべき物語に耳を澄まし、彼らからこの地球で生きる知恵を学ぶ必要と方法を示す。破滅しつつある世界に生きる現代人への警鐘であり、それでも世界を愛する方法があるのだと詩的に説く、21世紀で最も重要なプレゼント。それがこの本。


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鳥取県の中央に位置する東郷湖に面した新刊・古書を取り扱う本屋。汽水湖のほとりにあったおもちゃ屋の倉庫を自ら改装、増築してつくった店舗。裏には3坪の小屋をセルフビルドし、ギャラリーとして展開している。店内ではチャイやコーヒーを楽しめるカフェスペースも。
住所:鳥取県東伯郡湯梨浜町松崎434−18
営業時間:13:00~19:00 水・木定休

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Latest Issueセンスのいい人が、していること。2023.03.20 — 920円