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選・文 / BOOK NERD / August 13, 2020 本屋が届けるベターライフブックス。
『壇流クッキング』壇一雄 著(中公文庫)

④

食事どきともなれば、産まれたばかりの乳飲み子を膝の上に乗せ、食卓を囲むようにしている。息子にも食卓の記憶というものを焼き付けておいてほしいという愚かな親の一人よがりである。
 ぼくが小さな頃は夏休みともなれば、祖母の家で親戚たちが集まり、食卓を囲みわいわいと賑やかだった。ぼくは母や叔父たちに抱きかかえられ、まったく理解できない大人たちの話に耳を傾け、寿司の酸っぱい匂いやウィスキーの独特の臭気を嗅いでいた。あの頃の記憶はいまも脳裏に蘇り、ふと現在と過去がオーバーラップすることがある。
ある側面で、食や料理というのは記憶である。人は記憶を手がかりに料理を作る。いままで食べてきたものや培ってきた味覚によって、その人ならではの個性が光る一皿が生まれる。檀一雄は日本津々浦々にとどまらず、世界中のありとあらゆる料理をたいらげ、かつて食した料理の食材や味付けの記憶を辿りながら料理をした。そうした時間もまた、楽しく乙なものである。


選・文 / BOOK NERD / August 06, 2020 本屋が届けるベターライフブックス。
『つかれた日には鍋にキャベツとホロホロ鳥を放り込み』谷内雅夫 著(西日本新聞社)

③

 ホテルオークラ福岡の総料理長が、若き修業時代から現在に至るまで世界や日本各地で出合った食の数々をしたためたこのエッセイ集。料理長自ら描いた味わいのあるドローイング、そして惜しげもなく公開しているレシピ集もさることながら、料理というものが持っている本質的な深み、そして親しみやすさを日々慌ただしく暮らすわれわれに伝えてくれる。「手をかける」ということは、何も華美である必要はない。シンプルさのなかにこそ美味しさは潜んでいる、とこの本は語っているのだ。クタクタに煮込んだ野菜のうまみ。ほろほろと骨から崩れ落ちる鶏肉の柔らかさ。乳飲み子の世話で睡眠不足になりながら仕事を終え、疲れ切った体で作る渾身のスープは五臓六腑まで染み渡る。


選・文 / BOOK NERD / July 30, 2020 本屋が届けるベターライフブックス。『The Photographer’s Cookbook』Lisa Hostetler著(Aperture)

The Photographer’s Cookbook
The Photographer’s Cookbook

写真にはその人の個性が表れるように、料理もその人を表す。1970年代のこと。アメリカの写真博物館ジョージ・イーストマン・ハウスがレシピ本を出すために名だたる写真家に彼らの得意料理のレシピと料理にまつわる写真を依頼し、出来上がったのが本作。ロバート・アダムスのビックシュガークッキー、アンセル・アダムスのポーチドエッグ、エド・ルシェのコートオムレツetc…。美しい写真とともにヴェールに包まれた写真家のプライヴェートを垣間見られる、“ホーム感満載の一冊”です。


選・文 / BOOK NERD / July 23, 2020 本屋が届けるベターライフブックス。
『cook』坂口恭平 著(晶文社)

①

息子が6月の終わりに産まれ、妻は里帰りせず我が家で息子を育てることに決めた。妻と息子が退院してからの日々はとにかく慌ただしい。妻は息子におっぱいをあげ、オムツを頻繁に取り替える。ぼくはといえば、妻が用事を済ませている間、愚図る息子を抱っこしたり、沐浴をさせたり、いままで妻に任せっきりだった家事を担当している。料理は肩肘張らず、楽しいのがいちばんと教えてくれたのは坂口恭平さんのこの本だ。しばらく読んでいるとシンプルに、料理をする意欲が湧いてくる。ごはんを研ぐ。味噌汁を作る。炒め物や煮物、カレーや餃子。レシピを見ながら料理を作る。料理を作ることで手を動かす。手を動かすと心が落ち着き、明日への活力が湧いてくる。作り手がいつも健やかならば、もっと食卓は楽しくなるはずだ。


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“本オタク”の店主自らアメリカで買い付けてきた世界中のビジュアルブックや写真集、絵本や国内外の文学、エッセイをセレクト。1950年代~2000年代までのクラシック、マスターピースを取り揃え、多くの方の知的好奇⼼をくすぐる選書を心がけている。また、“本のある生活”に馴染む感度の高い雑貨も取り揃えている。
盛岡県盛岡市紺屋町6-27
営業時間:12:00~18:00
定休日:火曜・水曜
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