使いやすく、片付けやすい、心地いい台所の仕組み。
料理家・作家、樋口直哉さんの、 無駄なくスムーズに料理するための台所。前編:使いやすく、片付けやすい、心地いい台所の仕組み。December 12, 2022
科学的かつ論理的思考で料理する料理家と、ズボラでも掃除を楽に楽しむ術を体得した整理収納コンサルタント。セオリーに基づいて整頓されたふたりの台所から、使い勝手をよくする仕組みを学ぶ。
Tips 01 まず、適材適所の定位置を決める。
使う食材、道具を全部出し、ある程度工程に沿って配置しておくと、作業効率が上がる。「右利きなら右側にといったことが重要。フランス料理でミザンプラス(下ごしらえ)といい、あるべき場所にちゃんとあれば、それでほぼ決まると考えます」
Tips 02 まな板は2 枚、 使い捨てふきんとセットで。
何かを切るたびに洗うのがまな板の定石だが、一度の料理に2 枚用意すればその回数を減らせる。「1枚はそれでも洗う必要のある肉&魚用に扱いやすい小さめを。1 枚は野菜用で、ふきんで都度拭けばOKとする。僕は割り切って使い捨てふきんを活用」
Tips 03 菜箸は 面でつかめる四角形。
「丸い箸はつかみづらい、挟めない、せっかくつかんだのに落とすという悪循環を生みやすい。頭を紐で括ってあるものも操作性が低いと思っています。ベストはなるべく広い面でつかめる四角形の紐なし。今は〈無印良品〉の30㎝の竹箸を使っています」
Tips 04 鍋は一体型のステンレスで アルミ複層構造を選ぶ。
煮込む、茹でるが主な鍋は、熱の伝わり方と保温性をチェック。「側面と底が一体型なら下からも横からも熱が伝わりムラなく加熱できます。熱伝導がいいアルミの複層を、扱いやすく保温性が高いステンレスで挟んだ構造ならほぼ満点」。〈宮崎製作所〉製。
Tips 05 フライパンは 大小持つなら、20㎝と26㎝。
「フライパンのサイズは作る量ではなくコンロの径との相関関係を意識。一般的なコンロで熱効率よく調理できるのは20〜26㎝。焦げつきにくく、洗いやすく、軽いフッ素樹脂加工のものが重宝」。26㎝は〈北陸アルミニウム〉、20㎝は〈アイリスオーヤマ〉。
Tips 06 計量カップは 500㎖と200㎖を持つ。
「JIS規格がなく、目盛りごとで誤差が生じやすい計量カップは『大は小を兼ねない』が持論です。だから少量を量る用と多い量を量る用は分けて持つべき」。〈HARIO〉などの理科学系メーカー製は、耐熱、耐久性が高く、目盛りが摩耗しにくい。
Tips 07 動かしやすいのは 21㎝程度の牛刀。
「三徳包丁は便利ですが、刃渡りが短く力の入れ具合が難しいものが多い。刃渡り長めを見つけるか、21㎝の牛刀のほうが動かしやすいでしょう。切れ味をよくするため、マメに研ぐことが大切。すり減った砥石を研ぐ用の”面直し砥石”も用意して」
無駄なくスムーズに料理する。
片付け7:調理3という
台所時間を変える道具と配置。
以前、料理とロボティクス技術をどう融合させるかというプロジェクトに携わったときにわかったことがあります。なんと人は料理にかける時間のうち、7~8割を片付けに充てているそうです。つまり本来の目的であるはずの調理をしている時間は3割しかない。料理を楽しむなら、調理に集中できる時間が多いほうがいいに決まっているのに、こんな無駄なことはありません。
例えば昨晩、夕食の準備中、食材が変わるごとにまな板を水で流しませんでしたか? 保存容器からうっかり中身をこぼしませんでしたか? でもまな板を2枚用意、蓋を開けやすい保存容器を選んでいたら、避けられた話です。片付け以外に肉や魚を切るのに難儀するなんてのも、無駄な時間。包丁を研いでさえいれば、スムーズに仕事が進みます。それに食材の切り口がきれいなら、細胞が壊れないので料理もおいしい。
見せる収納は素敵ですが、理に適ってもいます。特に頻繁に使うボウルと皿の収納は”扉はなし”がベスト。できれば作業はロスなくワンアクションでと考えると、自ずと理想の配置や道具選びの基準が見えてきます。道具が握りやすい、軽い、熱伝導がいい、壊れにくい、汚れがたまらない……といったことも、調理時間や片付けやすさに直結しますから。水滴や焦げがついたままのフライパンなんて最悪です。本来の機能を発揮できなくなってしまいます。
台所が整頓されていれば料理はおいしくなります。雑然とさせないのはもちろん、道理を知って筋道をつくることが大切です。
樋口直哉 Naoya Higuchi 料理家・作家
料理を科学的に分解、成分の効果や道具の機能性などを実験、調査するのが趣味。群像新人文学賞受賞、芥川賞ノミネートなど作家としての顔も持つ。著書に『新しい料理の教科書』(マガジンハウス)。
photo : Yuya Shimahara edit & text : Koba.A