美しい暮らしのある、日本の町を旅する

山と海の距離が近く、古き良き面影の残る町、尾道。__後編July 23, 2023

山腹にひしめきあう寺社や家々、迷路のように細い路地、海の川と呼ばれる尾道水道。山や海に囲まれ、古き良き面影の残る尾道市中心街。一方で、「瀬戸内しまなみ海道」が繋ぐ、生口島(いくちじま)をはじめとする離島もまた尾道市だ。自然と町の距離が近い尾道の魅力をビストロ『ビズー』店主の岡本久美子さんがガイドする。この記事は尾道を旅した後編です。前編はこちら

24の写真で辿る、美しい暮らしのある町・尾道。

中心街を横切るように続く尾道本通り商店街は、戦後から変わらない店もある。
中心街を横切るように続く尾道本通り商店街は、戦後から変わらない店もある。
『タコス屋 ハルディン』(尾道市土堂2‒7‒19)は、雰囲気のある外観が目印。
『タコス屋 ハルディン』(尾道市土堂2‒7‒19)は、雰囲気のある外観が目印。
パクチーの花を添えたチキンタコス。完全予約制で料理はお任せ、内容は応相談。
食事は¥2,000( 1 人)。ドリンク別。
パクチーの花を添えたチキンタコス。完全予約制で料理はお任せ、内容は応相談。 食事は¥2,000( 1 人)。ドリンク別。
神社の参道が続く中を道路と電車が横切る不思議な光景もまた尾道らしい。
神社の参道が続く中を道路と電車が横切る不思議な光景もまた尾道らしい。
『洋酒喫茶ロダン』(久保2‒14‒13)のマスター石川晶一さん。世界中で蒐集した貝殻や珊瑚が店を埋め尽くす異空間。
『洋酒喫茶ロダン』(久保2‒14‒13)のマスター石川晶一さん。世界中で蒐集した貝殻や珊瑚が店を埋め尽くす異空間。
地元では狭い路地を「小路(しょうじ)」という。
地元では狭い路地を「小路(しょうじ)」という。
瀬戸田では、海沿いを走るサイクリングが人気。自転車もレンタルできる。
瀬戸田では、海沿いを走るサイクリングが人気。自転車もレンタルできる。
尾道といえば〝猫の町〞でも知られる。
尾道といえば〝猫の町〞でも知られる。
昭和の薫り漂うディープな新開エリア。
昭和の薫り漂うディープな新開エリア。
『ひ、ふ、み』は瀬戸田の新スポット。
『ひ、ふ、み』は瀬戸田の新スポット。
自然農法で栽培された柑橘を扱う『レモンラボ』(瀬戸田町瀬戸田284‒3)。穫れたて自然農レモンが購入できる。
自然農法で栽培された柑橘を扱う『レモンラボ』(瀬戸田町瀬戸田284‒3)。穫れたて自然農レモンが購入できる。
無農薬・無肥料のクラフト茶で知られる『ティースタンド ゲン』(土堂1‒14‒10)。生口島の浜でお茶を潮風に1 週間当てて乾燥した「浜茶」と「ほうじ茶のたい焼き」のセット(¥1,200)で町歩きの休憩に。
無農薬・無肥料のクラフト茶で知られる『ティースタンド ゲン』(土堂1‒14‒10)。生口島の浜でお茶を潮風に1 週間当てて乾燥した「浜茶」と「ほうじ茶のたい焼き」のセット(¥1,200)で町歩きの休憩に。
『Overview Coffee Japan』(瀬戸田町瀬戸田254‒2)は一杯のコーヒーを通して気候変動問題解決を目指すロースター。
Overview Coffee Japan』(瀬戸田町瀬戸田254‒2)は一杯のコーヒーを通して気候変動問題解決を目指すロースター。
本と音楽の店『紙片』(土堂2‒4‒ 9 )。新書を中心に、店主が長く読んでほしい本だけをセレクト。絵本やCDも扱う。
本と音楽の店『紙片』(土堂2‒4‒ 9 )。新書を中心に、店主が長く読んでほしい本だけをセレクト。絵本やCDも扱う。
手打ちそばの店『笑空(えそら)』(土堂2‒5‒15)。自家製納豆を使った3 種の納豆そば(¥1,600)は滋味深い味わい。日本酒の品揃えも豊富。昼営業のみ、完全予約制。
手打ちそばの店『笑空(えそら)』(土堂2‒5‒15)。自家製納豆を使った3 種の納豆そば(¥1,600)は滋味深い味わい。日本酒の品揃えも豊富。昼営業のみ、完全予約制。
細い路地にある、隠れ家的そばの名店。
細い路地にある、隠れ家的そばの名店。
向島にある『素白(そはく)』(向東町1011‒1‒2F)は、暮らしの道具を扱うギャラリー。店内は常設や作家の企画展で構成。
向島にある『素白(そはく)』(向東町1011‒1‒2F)は、暮らしの道具を扱うギャラリー。店内は常設や作家の企画展で構成。
しおまち商店街にある『yubune』(瀬戸田町瀬戸田269)は銭湯のある宿。宿泊者だけでなく日帰り入浴もできる。
しおまち商店街にある『yubune』(瀬戸田町瀬戸田269)は銭湯のある宿。宿泊者だけでなく日帰り入浴もできる。
二人の女性店主がセレクトする『ノンティークたからもの』(十四日元町3‒21)。古着や古道具、アノニマスで個性的な雑貨の中から宝探し気分で買い物できる。
二人の女性店主がセレクトする『ノンティークたからもの』(十四日元町3‒21)。古着や古道具、アノニマスで個性的な雑貨の中から宝探し気分で買い物できる。
高台にある潮音山(ちょうおんざん)公園(瀬戸田町瀬戸田26)は、瀬戸田町出身の日本画家、平山郁夫が描いた風景で知られる。向上寺三重塔越しに美しい瀬戸内海が望める。
高台にある潮音山(ちょうおんざん)公園(瀬戸田町瀬戸田26)は、瀬戸田町出身の日本画家、平山郁夫が描いた風景で知られる。向上寺三重塔越しに美しい瀬戸内海が望める。
千光寺山から続く、急勾配の下り道。
千光寺山から続く、急勾配の下り道。
眺望抜群のロープウェイで町並みを望む。尾道の独特な町のつくりがよくわかる。
眺望抜群のロープウェイで町並みを望む。尾道の独特な町のつくりがよくわかる。
向島洋らんセンター内にある『パクパク』(向島町3090‒1)は、芝生広場にあるオープンカフェ。優しい味わいの「野菜たっぷりビーフカレー」(¥950)。
向島洋らんセンター内にある『パクパク』(向島町3090‒1)は、芝生広場にあるオープンカフェ。優しい味わいの「野菜たっぷりビーフカレー」(¥950)。
向島と本州を繋ぐ渡し船は、尾道市民の足。車に乗ったまま乗船できる。
向島と本州を繋ぐ渡し船は、尾道市民の足。車に乗ったまま乗船できる。

The Guide to Beautiful Towns_尾道

音を感じながら過ごす時間が尾道旅の醍醐味。

「尾道は〝感じる〞町なんです。海風が吹く音、山の木々の音、船の汽笛、電車が走る音、鳥のさえずり……。いろいろな音が響いているけど、どれも温かみがあって、
この町の景色と合うんですよね」と話すのは、尾道でビストロ『ビズー』を手がける岡本久美子さん。10年ほど前に初めて訪れ、ここに住みたいと移住を決めた。

「尾道インターを下りて、一般道路に入った途端、車の速度が急に遅くなってびっくりして(笑)。町の人たちものんびり喋るし、都会とは時間の流れ方が違っていいなって。すぐに気に入りました」

 尾道三山がある本州側と対岸の島に囲まれた尾道は、山、海、町の距離が近い。町の中心を流れる尾道水道は使い勝手の良さから、中世の開港以来、良港として繁栄した。人が行き交い、物流が活発だった頃、町の発展とともに、山と海の間の限られた空間に、多くの寺社と住宅が密集して建てられた。さらに、その間を縫うように造られたのが細い小路(しょうじ)や坂道。急勾配に立つ家々、迷路に迷い込んだかのように続く路地、参道を線路や道路が横切る神社、その隙間で伸び伸び暮らす猫たち。どこか別世界のような尾道の光景は、文学や映画でも度々取り上げられてきた。古くは松尾芭蕉や正岡子規、志賀直哉らの作品に、また小津安二郎や大林宣彦の映画でもよく知られている。「海が見えた 海が見える 五年振りに見る尾道の海はなつかしい」という言葉が尾道本通り商店街の入り口の石碑にある。作家・林芙美子の『放浪記』にある有名な一節には、郷愁だけではない、この町の独特な景観の魅力をも表している。そんな誰もが想起する「ザ・尾道」を堪能するには、まずは山の上から眺めることがおすすめだと岡本さん。

「千光寺山ロープウェイ山麓駅から千光寺公園へ向かいましょう。ロープウェイの途中、尾道の旧市内では一番古い神社といわれる艮(うしとら)神社が眼下に見えます。境内にある大きな楠は樹齢900年といわれる県の天然記念物。山頂に着いたら展望台へ。市内を一望でき、ここから尾道水道やしまなみ海道の島々も見えるので、位置関係がわかりやすいと思います」

 尾道市には、いわゆる昔ながらの〝尾道の町〞のほかに、向島(むかいしま)、因島(いんのしま)、生口島(いくちじま)など島も含まれる。瀬戸内海に浮かぶ6つの島を10本の橋で結ぶ「瀬戸内しまなみ海道」は、エメラルドグリーンの透き通った海の上に架けられた幹線道路。なかでも「瀬戸田」の地名で知られる生口島は、レモンの生産量日本一を誇る島だ。本州から車で30分ほど、同じ市内でもまったく違った風景を楽しめる。

「『SOIL Setoda』や宿ができて、最近注目されているエリアですね。でも商店街は昔ながらのまま。そこに若い人たちが集まってきているので、新旧のミックス具合が面白い。それに瀬戸田の自然はダイナミック。車や自転車もいいけど、尾道駅前から定期船が出ているので、瀬戸内海の島を眺めながら行くのもおすすめです」

 尾道で岡本さんが好きな店は、昭和レトロな雰囲気そのままの尾道本通り商店街周辺に多い。

「地元に根付いたものづくりのなかで、長年続いている〈藤井製帽〉は尾道のクラフトといえますね。今も昔と変わらず手仕事を貫いているのがいいなと思います。飲食は地元民に馴染み深い大衆的な店や気軽な店がたくさんある。長年、同じ場所でオープンしていたり、ちょっとクセが強いけど気取りがなくて温かい店主が多い。夫婦で長年切り盛りしている『めん処みやち』、店主の陽気なキャラと本場さながらの味が楽しめる『タコス屋 ハルディン』、味はもちろんセンスがめちゃくちゃ素敵な蕎麦店『笑空(えそら)』、新開エリアにあるディープな『洋酒喫茶ロダン』など、みんな流行りに流されることなく、芯を持って仕事をしている。意志を感じられる店が私が思う〝いい店〞です」

 古き良き暮らしが残る尾道を歩いていると、ヴィンテージを愛でるような愛おしい気持ちが湧いてくる。その味わいは一朝一夕ではできなく、経年でしかつくれない。

「店の佇まいや路地の雰囲気、人のスピード感も基本的に昔から変わっていなくて、そのまま時が流れているだけだと思います」

 だから、尾道という土地を楽しむには、はっきりした目的がないほうがいいのかもと岡本さん。

「観光スポットを頑張って回るよりも、尾道水道沿いに腰を下ろして、ぼーっとしてみたり、宿で朝ゆっくりした時間を過ごしたり。都会だったらせわしなく過ぎてしまう時間を、のんびり過ごしてほしい。そうすることで、昔と変わらない尾道ならではの音や光や風を感じられる。それがこの町を旅する醍醐味だと思います」

岡本久美子 『ビズー』店主

1974年、福島県生まれ。東京や鎌倉、地元福島で働いた後、2013年に尾道に移住し、夫の岡本真人さんとビストロ『ビズー』をオープン。現在マダムとして切り盛りする一方、今秋、向島に自身のショップを計画中。

岡本久美子
 
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東京・大阪方面から山陽新幹線で福山駅下車、福山駅からJR山陽本線に乗り換えて、尾道駅を目指すのが一般的。新幹線で新尾道駅下車の場合、尾道駅へは3 ㎞以上離れているので、車での移動が必要。尾道中心市街地は徒歩で回るのがおすすめ。島に行く場合はレンタカー、船、自転車で。

この記事は尾道を旅した後編です。前編はこちら

photo : Tetsuya Ito illustration : Jun Koka edit & text : Chizuru Atsuta

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