真似をしたくなる、サンドイッチ
菜園から採れたての野菜を。季節のタルティーヌでめぐるフランスの風景。Vol.1_前編August 28, 2024
連載の番外編をお届け。
川村明子さんが本誌で『パリのサンドイッチ調査隊』の連載を始めてから、もうすぐ6年が経とうとしています。2021年からは、こぼれ話のウェブ連載『真似をしたくなる、サンドイッチ』も加わって、いまではすっかりサンドイッチの食べ歩きが彼女のライフワークの一つ。「月の半分は、サンドイッチでお昼ごはんという生活を送っているわけですが、ここへ来て、出合ってしまったのです。新たなシリーズを展開したくなる、せずにはいられない、これまでにはない切り口のサンドイッチに」と川村さんは語ります。
さぁ、今回は番外編。菜園のあるレストラン『ル・ドワイヤネ』で、季節の野菜とともに楽しめるタルティーヌについて、全4回に分けて、お届けします。これから冬になるまで、フランスの空気とともに。
出合いは2023年の6月、パリ郊外のファーム・レストランで。
口に入れる前から弾けそうな小粒のグリーンピースがこんもり盛られたタルティーヌ。これが、もう、衝撃的なおいしさで(その興奮は、podcast『今日のおいしい』#44「探し求めていた朝ごはんを見つけた」で)、そして、明白に、パリでは絶対に食べることのできないものでした。そう、パリではなかったのです。
それは、パリから40kmほどの地にあるファーム・レストラン『ル・ドワイヤネ』で、朝ごはんにいただきました。自宅からは、郊外線を利用して1本で行くことができるので、食事を楽しんだらそのまま帰ってくることも可能なのですが、私は最初から、朝ごはんも食べたいと思っていました。『ル・ドワイヤネ』には、食事を予約した場合のみ宿泊可能なゲストルームがあって、朝食もセットになっています。それが楽しみで、宿泊しました。たとえば初夏に南仏で、素敵な宿に滞在すると、朝食がセッティングされた大テーブルにアプリコットや桃がふんだんに盛られていて、その土地の光を纏った季節の味にワクワクするけれど、目の前に畑があるのなら、そのパリ近郊バージョンを体験できるのではないかと想像して。
宿泊者限定。朝食のタルティーヌ。
沈みゆく日が反映し、刻一刻と色合いの濃さを増す天井の高いダイニングルームで夕食の時間を過ごした翌朝、通されたのは、メインダイニングの脇にあるこぢんまりとした別の部屋でした。とても天気が良く外は眩しいほどで、室内の照明は消してありました。おかげで空気の色がとても柔らかかった。カップボードのカウンターには、ハムやチーズにヨーグルト、グラノーラがすでに並べられ、写真を撮っていると、ヴィエノワズリーとフルーツも運ばれてきました。その奥には、イチゴ×リンゴ×ミントと書かれた札をぶら下げたジュースのボトルもあって、「さて、何をよそおう?どれも食べたい……」と目移りしていたのに、テーブルの上に無造作に置かれた美しい紙に目をやると、朝食のメニューで、オーダーしてから作られる朝食料理が4つ書かれていました。そのうち一つは、タルティーヌだったのです。
これは、困った。優先順位をつけなければなりません。クロワッサンとパン・オ・ショコラはどちらにするか、パン・オ・ルヴァンはディナーで食べて止まらないおいしさだったし、また食べたいけれどここは諦めるか……。ディナーは1コース制だったため、何を注文するかで迷う時間はありませんでした。朝ごはんで、メニューを見て悩むことになるとは、なんともうれしい想定外です。とはいえ、タルティーヌの文字を見て、頼まない選択肢は私にはなく、注文しました。
グリーンピースとフレッシュチーズに半熟卵。
食べて受けた衝撃は、どれだけパリで食べ歩いても、畑で収穫されてからパンの上に盛られるまでの距離がここよりも短いタルティーヌには出合えない、という現実を突きつけてきました。鼻先に飛び込んできたグリーンピースの香りは、豆というより鞘そのもので、開放された風味がまだ落ち着いていない印象でした。
それから約1年。グリンピースの盛られたタルティーヌと再会できました。でも、それは昨年とは異なるもので……。
さて、これから冬になるまで、菜園の今の景色が見えるようなタルティーヌの便りを4回に渡って、お送りしますね。Vol.1の今回は前後編の2本仕立て。ということで、続きは明日の後編に。
『Le Doyenné』
木金12:00〜19:00 土日12:00〜22:00 月火水休 ☎︎0658802518