モダン建築ディテール探訪

テーマ 家具以上、建築未満。-石塚源太さんがガイドするモダン建築-モダン建築ディテール探訪 VOL.02 / August 20, 2021 / 〔PR〕

2021年9月25日より京都市京セラ美術館にて開催される展示「モダン建築の京都」に合わせて、在住のクリエイターやショップオーナーたちが、街に点在するモダン建築の”細かいところ”を紹介するこの連載。第2回は漆作家の石塚源太さんが、家具と建築の間のような造作を巡ります。

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控えめに機能美を漂わせる、
建築に付随する有用な造形物。

 京都に現存する100のモダン建築の中で、石塚さんが注目したのは家具と建築の間のような造作。「普段は“もの”として作品を制作していることから、作品を取り込んだ建築空間には憧れがあります。そこで着目したのは、“もの”である部分と建築との関連性。建築空間に付着しつつ機能性を備えた“もの”は、家具以上建築未満と定義できるのではないか。それは生活への工夫であったり、時代背景による生活様式の変化を反映していて、当時の視点を知ることができるのです」。大正から昭和にかけ、生活様式の変化に合わせ作られた建築に付着する創意工夫の痕跡を巡りたい。

自らデザインした、垂直に下がる「河井寛次郎記念館」の数珠の手すり。
自らデザインした、垂直に下がる 「河井寛次郎記念館」の数珠の手すり。

民藝運動家として知られる河井寬次郎の旧邸は昭和12年の竣工。「濱田庄司から贈られた箱階段には、天井から垂直に取り付けられた数珠状の手すりが。階段を上ると絶妙な位置にあることがわかります」

「聴竹居(ちょうちくきょ)」玄関の隅を立派な傘立てに仕立てる、二面の壁から飛び出る竹。
「聴竹居(ちょうちくきょ)」玄関の隅を立派な傘立てに 仕立てる、二面の壁から飛び出る竹。

建築家・藤井厚二が5回目の自邸として昭和3年に竣工。「強く感じるのは空間を広げるための、部屋の隅への意識。傘立てなど多くある造り付けの”もの”は、建築に収まった彫刻作品にも思えます」

「駒井家住宅(駒井卓・静江記念館)」の和洋切り替えの要はリバーシブルな襖。
「駒井家住宅(駒井卓・静江記念館)」の 和洋切り替えの要はリバーシブルな襖。

動物学者の駒井卓博士の私邸は、ヴォーリズの設計により昭和2年に竣工。「着物で生活していた静江夫人のため設けられた和室の襖は、隣のサンルーム側から見ればペンキ塗りの洋風の引き戸に」

敷居を外し畳を詰める発想に驚く、「北村美術館 四君子苑(しくんしえん)」の襖。
敷居を外し畳を詰める発想に驚く、 「北村美術館 四君子苑(しくんしえん)」の襖。

数寄屋建築の名工・北村捨次郎により昭和19年に完成した数寄者・北村謹次郎の茶室。「茶室『珍散蓮』は襖を取り除いて敷居も外し、畳を手前に詰めることで部屋の広さが変えられる機能性を備えます」

和洋中が混じり合う様式に惹かれる、「先斗町歌舞練場」の茶室の控えの間。
和洋中が混じり合う様式に惹かれる、 「先斗町歌舞練場」の茶室の控えの間。

劇場建築の名手・木村得三郎により昭和2年に竣工。「『鴨川をどり』の茶席から劇場へ向かう通り道にある部屋の床のタイルの意匠は洋風、その上の構造は唐風。一方で茶席は和風。折衷ぶりがユニーク」

天井や欄間に加えて「船岡温泉」の密かな見どころは右側の更衣室に。
天井や欄間に加えて「船岡温泉」の 密かな見どころは右側の更衣室に。

鞍馬天狗や上海事変の彫刻で知られる、大正12年竣工の銭湯。「実は更衣室の柱下方には縁起物のコウモリが。しっかり木彫され黒漆が塗られているものの、なぜあるかは不明。工人の遊び心でしょうか」

京都市京セラ美術館開館1周年記念展モダン建築の京都

会期 2021年9月25日〜12月26日
場所 京都市京セラ美術館 新館 東山キューブ

寺社仏閣にとどまらず、明治〜昭和中期の貴重な「モダン建築」も数多い京都。その代表とも言える京都市京セラ美術館で行われる本展示は、近現代建築の模型や図面、家具など400点以上が並ぶ貴重な機会に。

photo, text & edit : Mako Yamato illustration : Junichi Koka
協力:(公財)日本ナショナルトラスト(駒井家住宅《駒井卓・静江記念館》)


漆作家 石塚源太

漆の質感や触覚、素材の表面とかたちの関係を意識した作品を制作し、展覧会を中心に活動。10月には東京『CADAN YURAKUCHO』にて二人展を予定。

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