河内タカの素顔の芸術家たち。
河内タカの素顔の芸術家たち。
アレクサンダー・カルダーThis Month Artist: Alexander Calder / June 10, 2019
天井から吊るされた動く彫刻を生みだした
アレクサンダー・カルダー
「何かで支えられることなく、宙に浮かんでいる作品のイメージがあった。物体を支える手段として、とても長い糸か柱から伸びた長い腕を使うことが、重力から自由になるのに最も近いように思えるのだ」 – アレクサンダー・カルダー
宙に吊るすことで動く彫刻作品として有名な「ハンギング・モビール」を制作したのがアメリカの彫刻家であるアレクサンダー・カルダーですが、カルダーの彫刻が画期的だったのは、それがアートの歴史において初めて「動き」を取り入れた作品だったからです。
このシンプルかつ有機的な形状を持つ彫刻作品は、静止した状態でも絶妙なバランスを保って宙に浮かんでいて、次の動きへの緊張感が保たれていました。また、空気の流れによって静かに動き出すと、様々な形状に変化して同じ姿でいることはないという、それまでに存在しなかった画期的な作品が生まれたわけです。やがて、この作品は後のジャン・ティンゲリーなどによる「キネティック・アート」と呼ばれる“動くアート”のさきがけとなっていきました。
「モビール」とは、フランス語で「動き」と「動因」の両方をかけあわせた造語なのですが、実はこれを命名したのがカルダーのアトリエでこの作品を見たマルセル・デュシャンだったそうです。そもそもカルダーがこういった動くアートを思いついたのは、自身の初期作品である針金製の人形を使った「サーカス」シリーズを作った際に、人形のいくつかを糸でぶら下げたことがあり、それを空気の流れで予測不可能な動きをするというデリケートな抽象彫刻へと発展させていきました。
独特のシンプルな造形や限られた色による彩色に関しては、画家のピエト・モンドリアンのアトリエに訪れたのがきっかけだったといいます。モンドリアンのスタジオには、赤・青・黄の三原色と白・黒だけを用いた幾何学的な抽象画のみならず、壁や家具までが真白に塗られていたばかりか、三原色の厚紙が白い壁のいたるところに貼られ、その全体が計算されつくした空間をなしていたのです。
このとき、カルダーがモンドリアンに「この赤や青の四角がいろいろな方向に振動すれば面白いと思わないか?」と尋ねたところ、モンドリアンは「その必要はない。私の絵画はすでに非常な速度で動いているのだから」と答えたそうです(笑)。まあ、ともかく、モンドリアンのアトリエの厳格な様子に強い衝撃を受けたカルダーの頭の中に浮かんだのが、まさにモンドリアンの絵のごとく限定された色のみを使った天体の動きをイメージした抽象的な彫刻であり、それから天井から吊り下げられる「ハンギング・モビール」となって結実することになっていったというわけです。