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『Romi-Unie Confiture』のバターガレットには、春摘みダージリンティーを。写真と文:大西進 (『teteria』主宰) #2October 14, 2025

お菓子と紅茶で風景を見る。

「君が何を食べているか言ってごらん。どんな紅茶が合うか言い当ててみせよう」

フランスの美食家、ジャン・アンテルム・ブリア=サヴァランの言葉を半分お借りして、私もそんなふうに言えたらよかったのだけど。この仕事を始めたばかりの頃は明確な答えがなかったので、本や聞きかじった知識から「一般的にはこう言われています」としか言えなかったのだが、そろそろ私の答えを持たねばと、本を読むことをやめ、目を閉じてお菓子を食べ続けてきました。

『romi-unie』のバターガレットには、春摘みダージリンティーを。写真と文:大西 進 (『teteria』店主) #2
いがらしろみさんが手がける店『Romi-Unie Confiture』のバターガレットと、春摘みのダージリンティー。

一つのお菓子に対して5種類の紅茶を淹れ、一口食べては1種類飲み、また一口食べて次の紅茶を。産地や性質の異なる組み合わせを試し続けることで、いくつかの法則性が浮かび上がり、自分なりの根拠をもった組み合わせのおいしさに辿り着くことができました。お菓子と紅茶、そう悪いことはなかろうと踏んでいたのですが、ごく稀に、食べたことを後悔するくらいお菓子を不味くし、お茶を無力化するペアに出合った時、良くも悪くも相性ってあるんだなと認識を新たにしました。始めた頃はマリアージュと表現されていたその幸福な組み合わせは、いつの間にかペアリングと呼ばれることが増え、この十数年でゆっくりといろいろなことが変化していくのだなと界隈をぼんやりと見つめている日々です。

『romi-unie』のバターガレットには、春摘みダージリンティーを。写真と文:大西 進 (『teteria』店主) #2

お菓子に様々な紅茶をあてていく試みは、お菓子研究家・いがらしろみさんと「café-sweets」という雑誌で、数年にわたり連載を続けました。毎回テーマごとに、いがらしさんが作るお菓子に数種の紅茶を合わせ飲みました。そのなかで、良い組み合わせは一緒に食べることで「第3の味」が出現することがわかりました。景色が見える、みたいなことも起こりました。おいしい組み合わせは味覚だけでなく、思い出や風景まで感じさせてくれたのです。

その時の発見は、『Romi-Unie Confiture』のバターガレットと春摘みダージリンの組み合わせでした。ジューシーなバターと粉の香りが魅力的なバターガレットは、ミルクティーととても良い組み合わせだったのですが、試しに青い草の香りを持つ春摘みダージリンと試してみたら、バターとミルク、干した草のような香りが同時に漂い、私たちはそれを「牧場のマリアージュ」と名付けて、1+1が2以上になることを発見しました。それはミルクティーだけを飲んでいたのでは知ることができなかった組み合わせでした。

edit:Sayuri Otobe


『teteria』主宰 大西 進

大西 進
おおにし・すすむ/1976年、群馬県生まれ。大学卒業後、紅茶専門店勤務を経て、2005年に紅茶を中心とした茶葉の卸販売と、紅茶の楽しさを伝える教室やwebショップ、紅茶メニューの開発などを行う紅茶屋『teteria(テテリア)』を始める。現在は、静岡県在住。著書に『紅茶の絵本』(ミルブックス)など。

instagram.com/teteria.onishi

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