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暮らしと仕事を紡ぐ。連載コラム : 河井菜摘 #2December 09, 2024
先日明治大学の講義で自分の仕事や暮らしについて話す機会があった。修理の仕事をフリーで始めたのと同時に鳥取の家を買って三拠点生活を始めたのが10年前、講義で人に向けて話すのは積み重ねた10年を振り返るきっかけにもなった。
フリーで修理の仕事をしていくのは、ロールモデルがいたわけではなく手探りで自分の仕事の仕方を作っていったように思う。
はじめは業者や古美術商の方からの依頼が多いのかなと考えていたけど、実際は個人の方で修理してほしいという依頼の方が圧倒的に多く、器ってただの食器ではなく家族や大切な人との思い出が詰まったものなんだと気づかされた。
そういったものをお預かりしてお返した時に、心の底から喜んでもらえる声が何よりのやりがいで10年続けてきた。10年目の今でもお返しする時は仕上がりが気にいっていただけるか不安な気持ちが入り混じるし、喜んでもらえたお顔を見たり弾んだ声が聞こえてきそうなメールが届くと何よりホッとする。
場所を作って自分が何ができるかを明示していくと、少しずつ依頼が増えていって今の仕事のかたちができあがった。仕事と暮らしはイコールのようにつながっていて、何もない場所に来た10年前に全部自分で考えて動かなきゃいけなかった。
鳥取のこの場所は何もないということがすごく豊かで、なかなか手に入れようと思っても手に入らない環境のようにも感じている。
何もない場所だから暮らしと仕事も自分の手で育てられた。自分の人生のハンドルを自分で握るようになれたのは、この家に出会えたからなんだと思う。
edit : Sayuri Otobe
修復家 河井菜摘
1984年大阪生まれ。京都市立芸術大学、大学院にて漆工を学び、2015年に独立。漆と金継ぎがメインの修復家として活動。
陶磁器、漆器、竹製品、木製品など日常使いのうつわから古美術品まで1000点以上の修復を行う。
Instagramをきっかけに購入した鳥取の山の家で過ごしながら、京都・東京・鳥取の3拠点生活を送る。