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日々菜弁 その3料理家・室田 HAAS 万央里 #3March 21, 2025
東京に出張が決まったと同時にお昼ご飯は絶対に新幹線で弁当を食べよう、と心に決めた。
日本に帰ってきてから関東に住む両親のところに、孫の顔を見せにたびたび新幹線で帰るようになった。
孫、つまり私の娘が必ず横にいるのが通常の私の新幹線の旅なのである。
大体は家からの出発が盛大に遅れ、長野の駅で娘の好きなハムサンドを引っ掴むようにして買ったら私は駅構内のキオスクで野沢菜のおやきを買ってポケットに突っ込み新幹線に飛び乗る。
車内では娘に「お母さん、お姫様の絵を描いて。でも、髪の毛はくるくるしていないやつがいい。」などと無理難題を出され、折り紙で手裏剣を折り、水木しげるの妖怪辞典を読み、全く落ち着いて窓の外を眺めつつ弁当をひもとくなんて暇はない。
隣の席のサラリーマンのおじさんがいそいそと駅弁の包みを出してビールの缶なんかプシッと開けているのを恨めしそうに横目で見ながらおやきをかじる。(おやき、おいしいけど。)
今回は一人で出張。しかも泊まり。
夫と娘の夕飯は、私に内緒でこしょこしょと相談していたから、きっと冷凍のピザとチョコレートのデザートとか、なんか楽しいことを企んでいるんだろう。
今朝、「お母さんは今日出張でお泊まりだからいないよ。お父さんとお夕飯二人だね。さみしいなあ。」というと、「うん、行ってきてね。」とニヤニヤしていた。

いいよ、私もニヤニヤがとまらない。だって今日は憧れの新幹線でお弁当だ。新幹線でお弁当って言ったら、あれだ。焼売弁当だ。昨日、寝床の中で焼売のシュミレーションはバッチリよ。朝、娘を保育園に送り出し、そそくさと焼売を作り始める。
厚揚げと、干し椎茸、エノキ、そして新玉ねぎをたっぷり入れた焼売だ。絶対美味しい。新玉ねぎはサクサク感を残したいからエノキと一緒に大きめの微塵切りにして、あとの材料はフードプロセッサーで混ぜるとあっという間にタネの出来あがり。
さて包もうと皮を冷蔵庫から取り出すとワンタンの皮と書いてあった。痛恨(見てから買え)。いやでも実際ワンタンの皮と焼売の皮、どう違うの。多分変わらないと思うのでこのまま進める。なんだか包みにくい気もするが、もともと私は焼売を包むのが下手なので気のせいなんだろう。
普段、自分は動物や魚を食べないという選択をしてはいるが家族のご飯は家族が食べたいものを作るようにしているので、娘が好きな豚肉の焼売を作ることはある。でも結局自分は食べないので焼売をたっぷり食べることなどここ数年、どころかもっとないのだ。
いいじゃないの、自分のためだけの焼売。
中華風にするために、私は中華麹という塩麹に長ネギやニンニク、生姜、干し椎茸などを加えた自家製調味料を加える。今制作を進めている本が“菜食妄想旅飯”的なエスニックなレシピが多く、市販の中華出汁のもとやオイスターソースを使わずに簡単にアジアンな風味が出せる調味料としていろいろ試作をしていたのだ。
麹調味料はハマり始めるとどこまでもいろいろ試したくなってしまい(実際、なんでも混ぜたらそれなりに面白い調味料ができる)、冷蔵庫が瓶で埋まってしまいそうになるのだが、最終的に私は塩麹、そしてこの中華麹が必ずいつも台所にある麹調味料になった。


蒸し上がった焼売は、とっても美味しかった。新玉ねぎのシャクシャクに、中華麹とキノコの旨味が効いて軽いけど食べ応えがある。しまった。いくらでも食べられてしまう。一人10個は余裕だ(弁当箱に入らん。)
ふと、母が前の晩の残りの焼売を揚げてお弁当に入れてくれたのを思い出し、旦那の分と一人一個ずつ揚げてみる。そうそうこの皮の感じ。よーし、テンション上がってきた! 蒸した焼売に揚げた焼売、焼売づくしだ!
他のおかずは焼売につける辛子の代わりに和芥子とマスタード両方を効かせた雪菜のからし醤油和え、昨日の残りの蒟蒻の煎り煮、お弁当の常備菜でよく作るお酢をちょっと効かせたお揚げの甘辛煮(優しい味のおいなりさんの皮的なやつと思ってください)。
あくまでも焼売が主役。
焼売にかける情熱がすごい。多分今人生で一番”シュウマイ”という単語が多発している文章を書いている。


実は昨日、というか先週から娘が「私、お肉は食べない。」と言い出した。
私が食べないからそれを見て、というよりも、保育園で一番仲の良いお友達が動物が大好きで、大人になったら二人で動物を守る人たちになるらしい。だから、動物が可哀想だから私たちはお肉を食べないようにしたいの、という。
ふむふむ、そうですか。いいじゃない。そらあ、お母さん本気出して頑張って作るよ。あなたにもお肉を使わないご飯を。この焼売なら、もしかしたら娘も気に入ってくれるかもしれない。私だけのためではなく、家族みんなの大好きな焼売に、なってくれるだろうか。
デザートは福岡の叔母の家の庭で取れた八朔。お弁当を包むハンカチも春らしく黄色で。

新幹線で、お弁当と一緒にビールも奮発しようかな。
それではいってきます。
今日の日々菜弁厚揚げと新玉ねぎの焼売

〈材料〉(15〜16個くらい)
厚揚げ…200g
新玉ねぎ…100g
蓮根…60g
榎茸…20g
干し椎茸…5g
生姜…5g
片栗粉…大さじ1と1/2
〈調味料〉
醤油…小さじ1
ごま油…小さじ1
砂糖(できれば、甜菜糖、きび砂糖などの精製されてないもの)…小さじ1/2
中華麹…小さじ2
焼売の皮…15枚
✳︎中華麹は中華だしの素小さじ1/2 、ヴィーガンでない方はオイスターソース小さじ1などで代用できます。塩麹を使われる場合は、塩が強いので小さじ1弱、くらいで様子を見てください。中華麹のレシピ、いつかまたご紹介できたら!
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〈作り方〉
1)干し椎茸は水で戻して、石突を取っておく。
2)新玉ねぎは皮を剥き1センチ角くらいの大きめのみじん切りに。エノキも1センチくらいの長さにザクザクと切る。
3)生姜、皮を剥いた蓮根、干し椎茸はフードプロセッサーにかけて細かくする。フープロがなければ厚揚げは手で潰すかすり鉢で当たる。それ以外の材料は細かいみじん切りにする。
4)2と3をボールに合わせ、片栗粉と調味料を加えてよく混ぜ合わせる。
5)焼売の皮に包んでいく。
6)湯気の上がった蒸し器で中強火くらいで10分蒸す。
*揚げシュウマイは、蒸したものを皮が狐色になるまでさっと揚げ、お好みでラー油などをたらします。
*焼売にはお醤油や酢醤油を別に持って行ってもいいし、私は直接たらりとたらします。ゆずの皮を大きめに削いでシュウマイ同士の間に差し込むとほんのり良い香りが移り、幸せ。
タネは柔らかめにできるので、蒸し器の下には必ずキャベツや白菜の葉を敷いたり、クッキングシートを引いて焼売の皮がくっつくないようにしてください(その下に敷いたキャベツを食べるのも私は楽しみ)。
お肉と違って軽くていくらでも食べられそう。新玉ねぎの季節、ぜひぜひ作ってくださいね。
edit : Sayuri Otobe
料理家 室田 HAAS 万央里
