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サワードゥ日誌 vo.1。『パン屋 塩見』のバターいらずの食パン。 写真と文:池田浩明 (『パンラボ』主宰) #1April 07, 2025
最近、「サワードゥ」が気になっている。
サワードゥとは、一昔前なら天然酵母と呼ばれていたパン。イースト(市販のパン酵母)を使わず、発酵種を起こして、酵母から手作りするもの。
西海岸から火がつき、発酵ブームと連動しつつ、世界的なムーブメントになった。全部がクラフトだから、作り手の生きざまだけでなく、菌や小麦を通じて風土もパンに反映されるのだ。
そんなところが僕の“パンオタ”魂をくすぐってくれる。
あんパンやカレーパンみたいに中に具が入っていないサワードゥが、日本にどうやって根付いていくのか? いや、根付かせたい。
と、無駄に熱く願う僕のサワードゥ日誌を今月4回にわたって書いていこう。
○月×日
都心唯一の薪窯ベーカリー、『パン屋 塩見』、塩見聡史さんのサワードゥ。
なかでもその食パンを、僕は「バターがいらない食パン」と呼んでいる。
発酵種由来の乳酸の香りがものすごくて、小麦のミルキーさと相まって、発酵バターをつけてるみたいなのだ。

塩見さんは食パンを薪窯で1時間もかけて焼く。
薪窯の熱は電気オーブンとは違って、表面を焦がさず中にしっかり伝わり、パンを甘くする。要は、時間をかけて焼いて甘くする蜜芋の石焼き芋があるけど、あんな感じだ。

僕は、サワードゥをフライパンでトーストするのが好き。テフロン加工のフライパンなら、バターも油もいらず、ただ焼くだけ。薪窯ならではの皮の香ばしさが蘇ってくる。しかも表面はばりばり。
フライパンでパンを焼くだけで天国へ飛んでいけるんだから僕は幸せ者である。
ちなみに、この食感を時間が経ってもキープするのには『ALPE』の葉山修一郎さんのパン皿がうってつけ。

普通のお皿だと蒸気でしなっとなるけど、このお皿は葉山さんが刻んでくれた溝によって、パンが浮いて、蒸気が通り抜けて、ばりばりなままなのだ。
塩見さんは、沖縄で伝説的薪窯パン屋『宗像堂』と出合って、「こんな楽しいことを仕事にしていいのか?」と思ったという。1日中キャンプファイヤーやってるようなものだと。
薪をくべて燃やして、酵母を育て、生地と向き合う。生地を窯入れする前後の2時間。
発酵と窯の温度のタイミングが合うここぞという瞬間は、すべてを忘れて頭真っ白で仕事に没頭する完全マインドフルネスな時間だそうだ。
原稿を書き始めては、書いてる文章を見てお腹がグーとなり、まったく集中できない煩悩が多い僕のような人間からしたら、うらやましい限りだ。

edit : Sayuri Otobe
パンの研究所『パンラボ』主宰 池田浩明
