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ベターライフを考える。「サウナに行く」。 連載コラム : 鈴木ジェロニモ #4January 31, 2025

サウナに行く。 連載コラム : 鈴木ジェロニモ #4
サウナに行く。 連載コラム : 鈴木ジェロニモ #4

 サウナに行く。サウナについて、ずっと意味が分からなかった。お金を払って、熱い思いをして、汗をかいて、冷たい思いをして、何が「ととのう」んだ、と。走った方がいいじゃないか。僕はかなり汗っかきな体質なので10分ジョギングすれば服を着たまま茹でたような滝汗仕様に簡単になれる。走るだけなら無料だし、気分もすっきりする。「ととのう」というのはお金を使うことの気持ちよさを言い換えてるだけなのでは、と訝しみが日に日に強まる。そんな中で、知人の紹介で「渋谷SAUNAS」というサウナに行く機会があった。何が「ととのう」だよ……、と斜に構えたまま、でもそんな自分を経験という事実でもって裏切ってやりたい気持ちをも抱えながら、1人で過去の自分3人分くらいの思いを背負って初めてのサウナを体験した。結果、かなり良かった。「ととのう」が、あった気がした。その渋谷SAUNASに、自分の意志で、もう一度行く。

 「ご利用は初めてですか?」。受付で尋ねられる。初めてではないけれど自分の意志という点では初めてなような気がして、はい、と答える。時間や料金について丁寧に教えていただく。全てに納得して、館内用のリストバンドをもらい、入館する。脱衣所まで来ると早く入りたい気持ちの方が勝ってくる。着ていた服を雑に畳んで、転ばない歩き方を心がけながら浴室にゆっくり向かう。スタイリッシュなシャワーコーナーでお湯を浴びて、幾つかの部屋に分かれているサウナ室の、自分の中で1つ目と決めた扉を開ける。どこに座ってもいい中に、あそこだ、と自分で目標を決めて、そこに座る。数分、肌が平気そうにしている。食べ放題に似ている、と思う。ごめん今日のおれ無限だわ。……。いきなり汗が出る。そこからはもう止まらない。あーやばいやばい。退室。シャワーで汗を流して水風呂に入る。ひどく冷たい。勘弁してくれ、と泣きそうになって脱出。座れるところがあってそこに座る。ぼーっとする。じんじんする。体と心が一致してくる。

 分かった。もしくは、分かった気になった。「ベターライフ」というのは、自分のなりたい状態に自分の選択によって近づくことだ。座っていた裸の姿勢を、自分の意志で少し正した。

edit : Sayuri Otobe


お笑い芸人、歌人、YouTuber、俳優 鈴木 ジェロニモ

お笑い芸人。歌人。YouTuber。俳優。1994年生まれ、栃木県さくら市出身。プロダクション人力舎所属。R-1グランプリ2023、ABCお笑いグランプリ2024準決勝。第4回笹井宏之賞、第5回笹井宏之賞、第65回短歌研究新人賞最終選考。第1回粘菌歌会賞を受賞。文芸誌『文學界』、『短歌研究』、『ユリイカ』、『新潮』にエッセイ掲載。J-WAVE『GURU GURU!』、『鈴木ジェロニモ 半径3mの違和感短歌』のナビゲーター。劇団ロロ公演『劇と短歌『飽きてから』』に出演。YouTubeでの“説明する”動画が話題となり、NHK山形『やまコレ -山形を説明する-』、NHK総合『ドキュメント20min.』、『ニッポンを説明する』に出演。2024年11月、書籍『水道水の味を説明する』(ナナロク社)を刊行。

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