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ボサノバの永遠の名盤『ゲッツ/ジルベルト』で。 TBSアナウンサー・吉村恵里子 #1March 05, 2025
「吉村さんギターの弾き語りやってるの?」と最近聞かれることが増えました。
「はい、ボサノバが大好きで」と答えると、「ボサノバってなんだっけ?」ときょとんとしたお顔になる方も。邦楽、洋楽、K-Popと比べると詳しく知らない方もいるボサノバですが、私はボサノバほど日本人に合う音楽はないと思っています。
私の夢は「吉村恵里子のボサノバナイト」というラジオ番組を持つことです。
まずボサノバとは1950年代にブラジルで誕生した比較的新しい音楽ジャンルです。「Bossa Nova」はポルトガル語で新しい感覚、新しい傾向という意味になります。
「イパネマの娘」や「おいしい水」など、“ボサノバの代表作”といわれる曲が当時世界を席巻しました。作曲はアントニオ・カルロス・ジョビン、作詞はヴィニシウス・ヂ・モライス。リオデジャネイロの裕福な家庭で育ったこの二人によって洗練された新しい音楽ジャンルが生み出されました。ちなみにボサノヴァと書かれる方もいます。ピザとピッツァと同じ感覚ですね。
ボサノバがなぜ日本人に合うのか? それはボサノバが日本人に合うオンビートで作られているからです。
日本人は手拍子をした際に表拍(オンビート)になる一方、ロックやジャズ、西洋人の手拍子は裏拍(オフビート)になります。ボサノバは、盆踊りと同様オンビート。つまり日本人のDNAに刻まれたリズムだそうです。ボサノバを聴くと体が自然に動き出すのはこの遺伝子のおかげかもしれません。

私はInstagramのリールで「邦楽をボサノバ風にアレンジした」曲を投稿しています。オンビートのカッティングを意識し、ギターのコードはジャズで使うセブンス(Δ7)にするなど、一音を変えるひと手間で雰囲気が変わります。
みなさんがよく聴く邦楽なのだけれどボサノバ調になっている。聴く方にとってボサノバが身近に感じてもらえればと思っています。
さて、まずボサノバの一歩として欠かせないのは、アルバム『ゲッツ/ジルベルト』です。

世界的にボサノバが広まるきっかけになったのは、1963年にジョアン・ジルベルトとアメリカのジャズサックス奏者のスタン・ゲッツの共演によって制作されたこのアルバムです。
テナーサックスの息遣いが聴き取れるような音色と、キャッチーで理解しやすい英語の歌詞、ジョアンのフェミニンで柔らかい声がゆるく、耳心地の良さが詰まっていて、聴くとまるで温泉に浸かっているような脱力感に包まれます。
またジョアンの最初の妻、アストラッド・ジルベルトが歌う「イパネマの娘」は気だるさすら大人の魅力に感じられ、聴く人の耳と心をほどきます。ちなみにビートルズの「yesterday」に次いで「イパネマの娘」は世界中でカバーされた曲とも言われています。
今日、湯船に浸かりながら聞くのはいかがでしょうか。
edit : Sayuri Otobe
TBSアナウンサー 吉村恵里子
