イヴ・サンローランThis Month Artist: Yves Saint-Laurent / April 10, 2017

Author

河内 タカ

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Yves Saint-Laurent
1936 – 2008 / FRA
No. 041

1936年にフランス領アルジェリアのオラン生まれ。18歳で「ヴォーグ」の編集長だったド・ブリュノフの推薦によりディオールのメゾンに入る。1957年のディオールの急死を受け、わずか21歳でディオールの後継者に任命され、58年春に初のコレクションである「トラベーズ・ライン」を発表した。1962年にはパトロンかつ恋人でもあったピエール・ベルジェの出資により、自身のブランド「イヴ・サンローラン」を設立。斬新なデザインとエレガンスを併せ持つコレクションは絶大な人気を得て、特に「モンドリアン・ルック」は彼の名をより高めることとなった。40年間に渡りトップデザイナーとして活躍し、2002年のオートクチュールコレクションを最後に引退した。

モンドリアン絵画をファッションに転換した
”モードの帝王” イヴ・サンローラン

 「サンローランが最も苦しんだときに生まれたコレクションほど、まばゆいものはなかったんだ」 —ピエール・ベルジェ

 モダンアートとファッションという関係が語られる際に、おそらく必ずといっていいほど登場するのが、ココ・シャネルやクリスチャン・ディオールらとともに20世紀のファッション業界をリードし、約40年間に渡りトップデザイナーとして活躍したイヴ・サンローランが1965年に発表した、モンドリアンのストイックな抽象絵画に着想を得て作られた膝丈のストレートなワンピース・ドレスだと思います。

 このドレスは、その着想というか、そもそもモンドリアン絵画の代名詞ともいえる1930年作『赤・青・黄のコンポジション』をほんの少しのアレンジを加えて洋服にしてしまったという大胆なもので、それは水平と垂直の黒ライン、大きめな赤い面、そして青と黄の三原色のみが施され、装飾的なものを削ぎ落としたワンピースでした。モンドリアン絵画がまだそれほど一般的でなかった当時、その視覚的インパクトが与えた衝撃は並々ならぬものがあったはずですが、まだこのとき30歳にも満たなかったサンローランの名は、この未来的ともいえるドレスの発表によって一躍世界中に広まっていくことになっていったのでした。

 サンローランがモンドリアンにヒントを得たきっかけを作ったのは、彼の生涯の恋人でビジネスパートナーであり、冒頭の言葉を残したピエール・ベルジェでした。彼より5歳年上で雑誌の発行人だったベルジュは、現代アートの有数のコレクターでもあった人で、ファッション一筋のサンローランへ現代アートの面白さを教えてくれた人物でもあったのです。ちなみに、もともとファッションに疎かったベルジュも、サンローランが手がけたディオールの初コレクションに強い衝撃を受け、それが彼らの出会いに繋がったと言われています。

 自身のアトリエでは常にパリッとした白衣を着て作業をしていたアーティザン(職人)気質のイヴ・サンローラン。その潔癖な姿格好から、モンドリアンの生真面目な時計職人のような風貌をすぐに思い浮かべてしまうわけですが、「明日のドレス」とも称されたシンプルで美しいフォルムを持つこのワンピースは、伝統的なアイデアから解き放たれ、時代を大きく変えていくような革新的なアイデアと造形を打ち出したモンドリアンとサンローランという二人の才能の極みを象徴するような傑作であったのは疑いないところだと思うわけなんですよね。

Illustration: Sander Studio

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『Yves Saint Laurent』(Harry N. Abrams)20世紀後半の最も影響力のあるデザイナーの一人として知られる、イヴ・サンローラン。彼の生い立ちや作品、インスピレーションの源となった絵画やオペラなどを紹介する一冊。


文/河内 タカ

高校卒業後、サンフランシスコのアートカレッジに留学。NYに拠点を移し展覧会のキュレーションや写真集を数多く手がけ、2011年長年に及ぶ米国生活を終え帰国。2016年には海外での体験をもとにアートや写真のことを書き綴った著書『アートの入り口(アメリカ編)』と続編となる『ヨーロッパ編』を刊行。現在は創業130年を向かえた京都便利堂にて写真の古典技法であるコロタイプの普及を目指した様々なプロジェクトに携わっている。この連載から派生した『芸術家たち 建築とデザインの巨匠 編』(アカツキプレス)を2019年4月に出版、続編『芸術家たち ミッドセンチュリーの偉人 編』(アカツキプレス)が2020年10月に発売となった。

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