MUSIC 心地よい音楽を。
DJ、音楽プロデューサー松浦俊夫さんが選ぶ土曜の朝と日曜の夜の音楽。vol.2October 10, 2025
October.10 – October.16, 2025
Saturday Morning

10月の朝。秋の光がやわらかく差し込み、静けさの中に微かなあたたかさが滲む。そんな時間に響かせたいのが、ナラ・シネフロの「Dawn」。ベルギー出身、ロンドンを拠点に活動するハープ奏者/コンポーザーの彼女が、映画『The Smashing Machine』のために書いたスコアの一編だ。
映画自体はまだ観ていないが、シネフロは格闘家マーク・ケアーの物語に心を寄せ、そこに潜む繊細な感情や静かな瞬間を感じ取り、音にしたという。
瞑想的で空気のように漂う彼女の音楽は、一見レスラーの世界とは相反して映るが、“人間の脆さ”や“優しさ”を描くことで、物語の奥行きをそっと照らしているのだろう。
ハープのアルペジオが光の粒子のように広がり、シンセのドローンが空気を満たしながら、心の奥に静かな温度を灯していく。
その響きは、闘いのあとに訪れる静寂のようでもあり、週末の朝を穏やかに整えてくれる一曲だ。
アルバム『The Smashing Machine (Original Motion Picture Soundtrack)』収録。
Sunday Night

秋の夜の雨が、ゆっくりと屋根を叩いている。その一定のリズムのなかで、時間の輪郭が少しずつ滲んでいく。
その静けさの奥から立ち上がってくるのが、チャールズ・ロイドの「Hymn To The Mother, for Zakir」。
その静けさの奥から立ち上がってくるのが、チャールズ・ロイドの「Hymn To The Mother, for Zakir」。
アルバムに収められた曲のひとつひとつが、それぞれに人生の記憶を宿している。なかでもこの曲は、
昨年亡くなったタブラ奏者ザキール・フセインへ捧げた、静かな祈りのようなレクイエムだ。彼はロイド、
ドラマーのエリック・ハーランドとともに活動したトリオ Sangam の長年の盟友であり、この曲もまた、彼と共に長く演奏を重ねてきたものだ。
サックスの息づかいは祈りのように穏やかで、ギターの残響が雨音と溶け合いながら、
遠い記憶を呼び覚ますように響いていく。
一日の終わり、そして週の終わり。雨の音とともに、この曲が夜をやさしく包み込む。
明日の始まりを急がずに、ただ静かに、雨と音のあいだに身を委ねていたい。
アルバム『Figure In Blue』収録。
DJ、音楽プロデューサー 松浦俊夫

1990年、United Future Organization (U.F.O.)を結成。5作のフルアルバムを世界32ヶ国で発表し高い評価を得る。02年のソロ転向後も国内外のクラブやフェスティバルでDJとして活躍。またイベントのプロデュースやホテル、インターナショナル・ブランド、星付き飲食店など、高感度なライフスタイル・スポットの音楽監修を手掛ける。13年、現在進行形のジャズを発信するプロジェクトHEXを始動させ、〈Blue Note Records〉からアルバム『HEX』をリリース。18年、イギリスの若手ミュージシャンらをフィーチャーした新プロジェクト、TOSHIO MATSUURA GROUPのアルバムをワールドワイドリリース。24年、同作品がイギリスの〈Brownswood Recordings〉よりアナログにて再リリース。「TOKYO MOON」(interfm 金曜 23:00) 好評オンエア中。