MUSIC 心地よい音楽を。

DJ、音楽プロデューサー松浦俊夫さんが選ぶ土曜の朝と日曜の夜の音楽。vol.1October 03, 2025

October.3 – October.9, 2025

Saturday Morning

プロデューサー、シンガーermhoiさんが選ぶ土曜の朝と日曜の夜の音楽。vol.4
Title.
Ніці / Nici
Artist.
SOYUZ
週末のはじまりは、少しメロウに迎えてみたい。
秋分の風が頬をかすめ、夏の残り香を微かに含んだ光が街の影を長く伸ばしている。そんなときに必要なのは、無理に気分を煽る音楽ではなく、心身に寄り添い静かに心を解きほぐしてくれる一曲だ。
SOYUZの新作『Krok』からの「Ніці / Nici」は、その役割を十二分に果たしてくれるはずだ。夢の奇妙さをテーマにしたこの曲は、郷愁と希望が同じ呼吸のなかに溶け合っている。母語のベラルーシ語で歌うアレックス・チュマクの声は柔らかく、ローズの音色とストリングスのきらめきが、朝の風にそっと混じり合うように広がっていく。聴けば聴くほど、当初は控えめに思えた音のレイヤーが奥行きを持ち、淡い色彩を帯びて浮かび上がる。
この音楽には’70〜’80年代にかけて人気を誇った同国のフォークロック/アンサンブルグループ Pesniary(ペスニャーリ)の響きが遠くに残っていて、さらにブラジル・ミナスの音楽が持つ繊細で調和的な感触も影を落としている。そんな異なる記憶が、今ここでひとつの夢幻的な景色として立ち現れる。
ふと気づけば、少しだけ自分のペースで元気になっている。そんな曲だ。
アルバム『Krok』収録。

Sunday Night

プロデューサー、シンガーermhoiさんが選ぶ土曜の朝と日曜の夜の音楽。vol.2
Title.
Bebê
Artist.
Hermeto Pascoal
週末の終わり、日曜の夜はどこか特別な気配をまとっている。今の季節の風は寒さまでは届かないがひんやりとした感触を含み、窓を少し開けると部屋の奥まで静かに流れ込んでくる。その気配に誘われてグラスにウイスキーをストレートで注ぎたくなる。心を鎮め、時間を味わうための一杯だ。
そんな夜に響かせたいのがエルメート・パスコアールの「Bebê」である。冒頭のピアノは夜の帳に最初の一滴を落とすように響き、ベースは深く息づく大地の鼓動となり、やがて広がるストリングスは夜空いっぱいの光の帯としてふたりを包む。三つの音が重なり合うときひとつの風景が立ち上がり、沈みゆく日曜の夜を優しくも雄大に彩る。
リーダー作は決して多くはないが、その音楽的影響は計り知れない。きっと僕だけでなく多くの音楽家にとってもそうなのだろう。
この曲を聴くと、沈みゆく週末の底で、まだ熱が静かに息づいていることを知る。
ひんやりとした風と琥珀の一杯、その狭間に音楽が灯る。
アルバム『A Música Livre de Hermeto Pascoal』収録。

DJ、音楽プロデューサー 松浦俊夫

松浦俊夫
1990年、United Future Organization (U.F.O.)を結成。5作のフルアルバムを世界32ヶ国で発表し高い評価を得る。02年のソロ転向後も国内外のクラブやフェスティバルでDJとして活躍。またイベントのプロデュースやホテル、インターナショナル・ブランド、星付き飲食店など、高感度なライフスタイル・スポットの音楽監修を手掛ける。13年、現在進行形のジャズを発信するプロジェクトHEXを始動させ、〈Blue Note Records〉からアルバム『HEX』をリリース。18年、イギリスの若手ミュージシャンらをフィーチャーした新プロジェクト、TOSHIO MATSUURA GROUPのアルバムをワールドワイドリリース。24年、同作品がイギリスの〈Brownswood Recordings〉よりアナログにて再リリース。「TOKYO MOON」(interfm 金曜 23:00) 好評オンエア中。

instagram.com/toshiomatsuura

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