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作家・角田光代さんが選ぶ、生きる上での想像力が培われた12冊の本。August 27, 2023

作家の角田光代さんの住まいを訪ね、これまでの人生で静かに思考を育み、心に定着していった本の話を教えてもらった。角田さんの心地よい住まいと、大切な本の話はこちらから。ここでは、角田さんが選ぶ、生きる上での想像力が培われた12冊の本を、角田さんのコメントと合わせて紹介します。

1冊目:言葉のセンスのよさに感嘆した恋愛小説。

山崎まどか (早川書房) ノーマル・ピープル作家 角田光代 自宅 住まい 心の本
『ノーマル・ピープル』
著 サリー・ルーニー
訳 山崎まどか (早川書房)

「デビュー作『カンバセーションズ・ウィズ・フレンズ』(早川書房)を読んで、書き手の言葉のセンスに目を見張るものがあり、2 作目のこの本もすぐに手に取りました。文章が本当にすごい」。裕福な家の娘とその家で働く母を持つ少年。幼なじみの二人は惹かれ合い、付き合うことに。一度は別れるが、お互いを深く理解し合い、付かず離れずの距離感で恋愛以上の関係を育んでいく。会話がとてもリアルで、ずっと二人を見守っていたくなる切ない恋愛小説。

2冊目:なぜ生まれて死ぬのかを優しく説いてくれる。

吉田修一 (毎日新聞出版) 永遠と横道世之介 上・下 作家 角田光代 自宅 住まい 心の本
『永遠と横道世之介 上・下』
著 吉田修一 (毎日新聞出版)

『横道世之介』から始まる世之介シリーズの完結編。39歳でカメラマンをしている世之介。下宿仲間との穏やかな生活にちょっとした事件が起きて……。切なさと温もりが奏でる人情物語。「物語に登場する輪廻転生を信じるブータンの人が、多くの人に親切にしたら来世で愛してもらえるから、愛されるために人は生まれ、そして生まれ変わる、と言う場面があります。なぜ私たちは生きるのか、そんな大仰な言葉をひと言も使わず、伝えてくれる本でした」

3冊目:子どもの自分に近い世界が描かれていた。

著 松谷みよ子 絵 菊池貞雄 (講談社) ちいさいモモちゃん 作家 角田光代 自宅 住まい 心の本
『ちいさいモモちゃん』
著 松谷みよ子 絵 菊池貞雄 (講談社)

児童文学の名著「モモちゃんシリーズ」の1 作目。生まれてから3 歳までのモモちゃんの日常を描いている。猫のプーを友達に、電車で空を飛んだりライオンと遊んだりと、夢の中で自由に振る舞うモモちゃん。飛躍のある比喩が子ども心をくすぐる。「小学生の頃は本を手当たり次第に読んでいて、これも親にねだって買ってもらいました。子ど もにとって押し入れに入ったり雲に乗ったりするのはリア ルで、自分にとても近い世界が描かれています」

4冊目:美の捉え方や独特の視線の鋭さが伝わる。

大竹伸朗 都築響一 (求龍堂) カスバの男 ─大竹伸朗モロッコ日記 作家 角田光代 自宅 住まい 心の本
『カスバの男 ─大竹伸朗モロッコ日記』
著 大竹伸朗
写真 大竹伸朗 都築響一 (求龍堂)

モロッコを旅した著者の絵日記エッセイ。衝動的に北アフリカへと向かったアーティストは、人々の生活、風景を個性的な視点で切り取っていく。色鉛筆や水彩で描かれた絵、綴られた言葉全部が創造性に溢れ、読後はモロッコを旅したくなる。「たとえば、モロッコ名物の甘いミントティーの銀コップに、ハエが止まっているその瞬間や、街角にゴミが放置されているところを美しいと感じる。そういう大竹さんの目線の面白さがよく伝わってきます」

5冊目:社会の枠にはまらない強さ。

大塚勇三 (岩波少年文庫) 著 アストリッド・リンドグレーン 長くつ下のピッピ 作家 角田光代 自宅 住まい 心の本
『長くつ下のピッピ』
著 アストリッド・リンドグレーン
訳 大塚勇三 (岩波少年文庫)

ごたごた荘に住む9 歳のピッピは強くて力持ちの女の子。型にはまらないので大人たちは渋い顔だけど、子どもたちの憧れを誘う。「船長のお父さんが航海に出ている間一人で暮らしているピッピが、近所の兄妹に悪いことをたくさん教えるんです。ピッピは本当に行儀が悪くて野蛮。当時の自分は体育倉庫の2 階から飛び降りるとかお転婆な遊びをやっていて、この本を読んだとき、たぶんピッピ的なことが好きだったから、嬉しかったんだと思います」

6冊目:バックパッカーの旅を描く草分け的名著。

沢木耕太郎 (新潮文庫) 深夜特急 作家 角田光代 自宅 住まい 心の本
『深夜特急 全6巻』
著 沢木耕太郎 (新潮文庫)

「ポルトガルでファドが聴きたいのに、お金がないから店の外で漏れてくる音を聴いていたところ、一番いいスポットに人が連れていってくれる。もちろん危険なことも起こりますが、そういう人との触れ合いも旅ならではのこと」。バッグ一つで香港からロンドンへと乗合バスで向かう、度胸試しのような旅に出た著者。しかし香港やマカオで街や賭博の熱狂に巻き込まれていく。多くのバックパッカーたちを絶えず生んでいる紀行小説のロングセラー。

7冊目:好きなことを仕事にするとはどういうことか。

藤子不二雄Ⓐ まんが道 作家 角田光代 自宅 住まい 心の本
『まんが道 全10巻』
著 藤子不二雄Ⓐ (小学館クリエイティブ)

藤子不二雄の自伝的大長編漫画。読みどころの一つは修業時代。藤子・F・不二雄と藤子不二雄Ⓐが出会い、伝説となったトキワ荘で失敗を重ねながらも仕事に没頭する。「読んだのは、純文学からエンターテインメント小説のフィールドに移るため、書き方も何もかもを変えなくてはならないときでした。好きなことを仕事にするのはハッピーではないことも多い。好きを極めるとはどういうことか、言葉では書かれていませんが、胸に迫るものがあります」

8冊目:生きているものが死に至るのは自然なこと。

中野圭二 (新潮文庫) ジョン・アーヴィング ホテル・ニューハンプシャー 上・下 作家 角田光代 自宅 住まい 心の本
『ホテル・ニューハンプシャー 上・下』
著 ジョン・アーヴィング
訳 中野圭二 (新潮文庫)

海辺で出会った男女から始まる一家の物語。芸人から買ったクマ、障がいのある人々やカップル、犬など大所帯となった家族は、父親の夢であるホテルを作る。アメリカの人気作家による’80年代の代表作。「アーヴィングの作品は登場人物の名前が覚えられず、何度も挫折していました。でもこの長編はするりと入り込めた。物語の中で生き物がたやすく死に至りますが、この作家にとって生きることは死を含んでしまうことなんだと、すっと理解できます」

9冊目:自立して生活する女性のかっこよさを知る。

向田邦子 向田和子 (新潮社) 向田邦子 暮しの愉しみ 作家 角田光代 自宅 住まい 心の本
『向田邦子 暮しの愉しみ』
著 向田邦子 向田和子 (新潮社)

「この人がいなければ、女性が働いて生きていくことについて、別のニュアンスがあったかもと思うんです。こだわりを持って一人で生活していくのがこんなにもかっこいいことだと、多くの女性たちが勇気づけられるはず」。著者本人の文章と豊富な写真で構成され、生前の暮らしぶりが伝わってくる本。参考になると人気の料理レシピはもちろん、器選びや愛用していた店、猫との生活、旅の思い出などを掲載。暮らしの楽しみ方のアイデアが詰まっている。

10冊目:偉い人の間抜けな行動を大真面目に描写して。

内田百閒 (福武文庫) 間抜けの実在に関する文献 作家 角田光代 自宅 住まい 心の本
『間抜けの実在に関する文献』
著 内田百閒 (福武文庫)

「師匠である夏目漱石が原稿用紙に鼻毛を並べていく話など、間抜けと思う人々の行動を真剣に書いているところが白眉。デビューした頃に読んだ本ですが、大真面目に書かれたユーモアに笑いが込み上げ、それまで未読だった内田百閒の世界に惹きつけられました」。とかく偉い先生といわれる人たちは実のところ頓馬(とんま)なのではないか、という考察から、さまざまな間抜けエピソードが語られる。友人との交遊から生まれたエッセイなども含めたアンソロジー。

11冊目:アートは個人的な目線で自由に楽しむもの。

村田喜代子 (徳間書店) 偏愛ムラタ美術館 展開篇 作家 角田光代 自宅 住まい 心の本
『偏愛ムラタ美術館 展開篇』
著 村田喜代子 (徳間書店)

「村田さんの書かれるものは愛読していて、いつも楽しみなんです。この本を読むとアートってもっと自由に観ていいんだと思えてきます。エッセイとともに図版も豊富に収録されていて、なるほどと気づくことが多い」。クリムトの庭や、長沢芦雪とカラヴァッジョ、黒田征太郎のアトミック神話、デイヴィッド・ホックニーと木、つげ義春の妻の絵など、独特の感性から著者が偏愛する画家の作品を奥深く読み解く。人気アートエッセイシリーズの第3 弾。

12冊目:文章で愛を永遠のものにする行為への驚き。

梯 久美子 (新潮社) 狂うひと 「死の棘」の妻・島尾ミホ 作家 角田光代 自宅 住まい 心の本
『狂うひと 「死の棘」の妻・島尾ミホ』
著 梯 久美子 (新潮社)

作家の夫と、その浮気を糾弾する妻との極限状態を描いた小説『死の棘』(新潮文庫)。モデルとなった作家の島尾敏雄と島尾ミホの夫婦の強い結びつきが注目された。しかし書かれていたことは本当なのか。著者が取材と研究を重ねた結果、意外な事実が明らかに。「『「死の棘」日記』では妻が削ったり書かせたりした部分が多分にあった。そうすることでミホが文字の中で二人の愛を永遠のものにしようとしたと読めます。そういう形の恋愛があることが衝撃的」

photo : Shinsaku Kato text : Akane Watanuki


作家 角田光代

1967年神奈川県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。’90年「幸福な遊戯」で海燕新人文学賞を受賞しデビュー。’96年「まどろむ夜のUFO」で野間文芸新人賞、2003年「空中庭園」で婦人公論文芸賞、’05年「対岸の彼女」で直木賞、’07年「八日目の蟬」で中央公論文芸賞を受賞。他に『ゆうべの食卓』(オレンジページ)など著書多数。

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