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「自分を客観的にみる」『李青』オーナー・鄭 玲姫さんの、暮らしとセンス_後編April 02, 2023

2023年3月20日発売の『&Premium』の特集は、「センスのいい人が、していること」。センスがあるといわれる人たちは、どんな暮らしをしているのか。 ここでは京都で李朝喫茶『李青』を営む鄭 玲姫(チョンヨンヒ)さんの暮らしを紹介。「家の中の気に入っている場所」「自分のセンスを育んできたもの」「日々、大事にしている習慣」「大切に思っているものたち」の4つを通して、鄭さんのセンスを紐解きます。
この記事は後編です。前編はこちら。

3.日々、大事にしている習慣。 Daily Routine

「自分を客観的にみる」 『李青』オーナー・鄭 玲姫さんの、暮らしとセンス_後編

部屋に花は欠かさない。「花はいつも青果店が持ってきてくれますが、切らしたときはレモンや果物を代わりに置いて、飾りながら食べています」。窓辺の緑の風景を見ながらお茶を飲んだり、ごはんを食べるのも日常。「夏はうわっと緑でいっぱいに。ジャスミンとムベとテッセンの枝がからんで、本当に美しいんです」

2.自分のセンスを育んできたもの。 Past Experiences

上段左端が李朝の針入れのペンダント。蝶形の金具も李朝のもの。下段左から3 番目上が、エトルリアの遺物を模したイヤリング。「時計は機械式のものと〈カルティエ〉が好き」
上段左端が李朝の針入れのペンダント。蝶形の金具も李朝のもの。下段左から3 番目上が、エトルリアの遺物を模したイヤリング。「時計は機械式のものと〈カルティエ〉が好き」
『アーツ&サイエンス』で購入した革編みのバッグ。「カゴと同じ編み方をしているのがかわいいと思って。買い物はすべて衝動買い。というか、向こうから合図が来るんです」
『アーツ&サイエンス』で購入した革編みのバッグ。「カゴと同じ編み方をしているのがかわいいと思って。買い物はすべて衝動買い。というか、向こうから合図が来るんです」
35年くらい前に購入した〈ヨーガンレール〉の革バッグ。鄭さんの服装に似合い、ざっくりしているためなんでも入れられるのが気に入って、ずっと使い続けている。
35年くらい前に購入した〈ヨーガンレール〉の革バッグ。鄭さんの服装に似合い、ざっくりしているためなんでも入れられるのが気に入って、ずっと使い続けている。
店の看板娘という、李朝白磁壺。額に入っている絵は李朝中期のもの。もとは8 枚屏風で、瀟湘八景図(しょうしょうはっけいず)が描かれている。壺を置いた棚は竹だけで組まれた李朝家具。
店の看板娘という、李朝白磁壺。額に入っている絵は李朝中期のもの。もとは8 枚屏風で、瀟湘八景図(しょうしょうはっけいず)が描かれている。壺を置いた棚は竹だけで組まれた李朝家具。

鄭さんの持ち物に派手なものはなく、シックでエレガントな色やデザインでまとめられている。アクセサリーも黒や茶がベース。大切にしているのは、自分らしいと思える長く愛用できる品々。ただし、李朝白磁壺は特別。白磁の艶、丸い膨らみ。李朝の行き着く先は、この壺にあるという。「うちの看板娘です」

李朝の背景にある、 精神性に惹かれる。

  鄭さんには『李白』の宮原さんが言った忘れられない言葉がある。

「『鄭さん、お金を出したらこんなに美しいものが手に入る。こんな素晴らしいことはないじゃないですか』とおっしゃったんです。その言葉が私の価値観を変えました。でも『李白』の素晴らしいところは、ものをお金で見ないところなんです。骨董屋さんのなかには、器を叩いて品定めしてお金に換算するところもあります。けれど宮原さんは、李朝には、作られた時代の精神性や、職人さんの気持ち、社会背景が入っているから美しい、とおっしゃっていました。朝鮮時代のものには、人間のおおらかさや優しさがすべて入っている、紙屑でも愛おしいものはある、と。そういう発想なんです。それにとても感動しました」

 その店に倣って自分の店を作ることに。当初は一人でできる小さな場所を借りようと考えていたが、家族からやるなら本格的にやったほうがいいと言われ、ちょうど家族の形も変化したことから、住居と店を兼用する建物を新築。設計は知り合いの建築家に頼んだが、すでにイメージはあったため「すごく口出しをしました。やりにくい施主だったと思います」と笑う。

 ほぼ満足した家に出来上がったが、模様替えはしょっちゅう行う。

「ものを選ぶときの楽しさとディスプレイするときの喜びは、何年たっても何回やっても飽きません」

 目に入るものすべてが鄭さんの審美眼で選ばれた家は、彼女のセンスの集積ともいえる。

「ここにあるのはぜんぶ私の人生をかけて集めてきたもの。人間関係でいただいたものもあり、人との出会いで今の私がいる。私ははっきりものを言うタイプですが、陰口は言わない。信頼できる人間関係を築けたのも私の財産です」

 そんななかで、大切に思っているものも教えてもらった。アクセサリーは、李朝の針入れや金具に自分で革紐を通してペンダントにしたものや、古代ローマ時代のエトルリアの遺跡から出てきた耳飾りを写して、友人に金とプラチナで作ってもらったイヤリングなど、世界で一つだけのものが揃う。

「たくさんないし、高価な石が付いたものもないけれど、私らしいと思えるものたちです」

 バッグは、古くから使っているものと、新しいものの二つ。

「肩掛けバッグは35年くらい前の〈ヨーガンレール〉のもの。ネックレスも持っていますが、彼のデザインは、質がよくて独創性がある。なんでも入るし、ずっと愛用しています。手提げのトートは2年くらい前に『アーツ&サイエンス』で購入。日本のカゴ編みを革で表現したもので、もともとカゴ好きなので、気に入っています」

 原点ともいえる李朝の壺は、1階の喫茶室に置いてある。

「韓国の李朝はここから始まり、ここで終わると言っても過言でありません。手に入れたのは遅かったのですが、私にとっての李朝のイメージはずっとこの白磁壺でした。今でこそ珍重されていますが、かつてはお酒や醤油を入れる生活道具だった。これを見ると李朝を生きた人の背景がわかる。そこが民藝の愛おしさだと思います」

PROFILE

鄭 玲姫 『李青』オーナー

1947年大阪生まれ、京都育ち。1998年に李朝の陶磁器や家具調度品、西欧、アジアのアンティークも置かれた李朝喫茶『李青』をオープン。寺町の2号店は閉店。ものとの出合いは恋におちるようなもの。合図がやってくるという。
https://lisei.thebase.in/

photo : Yoshiki Okamoto edit & text : Wakako Miyake

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