INTERIOR 部屋を整えて、心地よく住まうために。
淡路島で暮らす料理家、どいちなつさんの台所。道具や素材が持つ力を引き出す。November 28, 2023
木や、錆びた銅の表情に惹きつけられて。
遠くに山並みが見える、のどかな道沿い。里山に囲まれるようにポツンと佇む瓦屋根の小屋がある。「淡路島の中でもここは本当に田舎のほう」と話すのは、料理家のどいちなつさん。小高い山地にある10年以上耕されていなかった棚田を夫と開墾し、そこからすぐの自宅近くに、家族や友人と食事したり、人を招いたりするキッチンスペースを作った。
「畑の帰り道に牛乳の集荷小屋として使われていた建物に出合ったんです。持ち主は畑の管理者とたまたま同じで運よく譲ってもらえて。建物の歪みや瓦を直す作業は自分たちでやり、キッチンまわりの収納は友人の内装家に相談しました。彼はしばらくうちの庭にテントを張って(笑)、3 か月一緒に暮らしながら対話を重ねて作っていきました」
小屋の扉を開けるとすぐに、古材を大胆に使って作った、味のあるキッチンカウンターが目に入る。畑で採れたバターナッツカボチャと届いたばかりの艶やかで真っ赤なりんごが、大皿の中いっぱいに並んでいた。
「近くに古材屋があり、その倉庫にいい感じの風合いの木材がたくさんあるんです。そこから掘り出し物を探すのが好き。カウンターに使った木材もそこで購入したものです。いろいろと安く手に入れることができるので、惹かれる素材があれば迎え入れるようにしています。用途は後で考えればいいかなって」
綺麗に成形された木材にはない無造作なフォルムが、自然のなかにあった姿を思わせる。
「まな板も自分で仕上げたもの。20年ほど前に『東急ハンズ』で購入したオリーブの木の板を半分に切って使っています。友人は木材を使って、私の身長に合わせてカウンターを低めにこしらえて、それに合わせて棚を作ってくれました。そして、夫がオーブンレンジを囲うようにして木材を張り合わせてちょっとした収納スペースを編み出してくれて。小さなキッチンだからこそ、気の利いた収納があると便利なんです」
物がぎゅっと整列したキッチンの片隅には、どいさんの道具愛が溢れている。側面のボードにハサミを掛けて並べ、造作した包丁スタンドに使用頻度が高いものを収納した。
「昔から古道具が好きなんです。つるんとしたものよりも使い込まれた質感が好み。だから、配管の素材は銅を選んでいます。木材だけでまとめるよりも、異素材を合わせて空間を引き締めたいと思って。やっぱり、慣れ親しんだ道具や好きなものに囲まれた空間はほっとできるし、料理を楽しむ心が整いますね」
どいちなつ料理家
〈心に風〉主宰。淡路島で自然と対話しながらハーブや野菜を育て、その恵みをプロダクトとして届ける。キッチンスペースを開放して、料理教室を行う。
photo : Shinsaku Kato edit & text : Seika Yajima