MUSIC 心地よい音楽を。

ミュージシャン Ovallさんが選ぶ土曜の朝と日曜の夜の音楽。vol.4October 25, 2024

October.25 – October.31, 2024

Saturday Morning

Title.
Cobra Criada
Artist.
Elis Regina
朝にめっぽう弱く、ゆったりしていたい僕は暴力的な目覚まし時計の音が大嫌い。せっかくの休日の朝が台無しになる。けれども目覚ましの音が欲しいとは思っていて、朝、目覚まし時計の代わりにこの曲がぴったりなんです。
まったりとゆるりと朝は起きたいし、強すぎずほんのり元気に明るく。そんな目覚めの気分にさせてくれるのはエリスで、断然おすすめなのがこの曲。モントルー・ジャズ・フェスティバルのエリスのライブ盤として有名なこのアルバム。バンドアンサンブルも絶頂でどこを切り出しても聴き入ってしまう。その1曲目が「Cobra Criada」です。
出だしはセザル・カマルゴ・マリアーノの気だるくゆったりとしたエレクトリックピアノ。次第にパウリーニョ・ブラガのドラムスとルイザォン・マイアのベースが加わりパルチード・アルトのサンバのリズムでしばらくのセッション、温まった頃にエリスがおもむろに現れて歌い出す。伸びやかで強く、包み込む。エリスらしく遊び心たっぷり。ライブ演奏ならではの徐々にホットになる展開。この展開、テンポ感、温度感が朝の目覚めにぴったりなんです。音質も程よく丸みを帯びていて朝に心地よい。全体が熱くドライブしたかと思えばまた静かになる絶妙なダイナミクス。曲が終わる頃には「さて、コーヒーでも淹れようか」という気分になっていて、すっきりと起きれる。土曜の目覚めにぴったりですよ。(Shingo Suzuki)
アルバム 『Montreux Jazz Festival』収録。

Sunday Night

Title.
Flamenco Sketches
Artist.
Miles Davis
名盤中の名盤で誰しも知っているであろうアルバムのラスト曲。鬱陶しい月曜日がやってくるその前に、寝る前に気持ちを整えたい時に聴きたい曲。
ビル・エヴァンスのピアノから入るその瞬間から、自分の週末のストーリーを思い出し浸れる。例えば週末のライブの帰路、夜の飛行機に乗りながら窓越しに空港のライトがチラチラとしている、そんなひととき。例えば、高速道路を車で走らせ家路につく時。部屋で携帯電話を見ている時。週末の終わりにそっと寄り添ってくれる、そんな曲、そんな演奏。
特にこのアルバム収録に採用されたこのテイクではキャノンボール・アダレイのアルトサックスが好き。このセッションの中ではっと息を呑むフレーズが極上のトーンで展開してくれる。この温度感。ポール・チェンバースの温かいトーンで奏でられるベースがテンポを決定づけ、トレーンのどのフレーズも印象に残る。マイルスのミュートされたトランペットが全体を引き締めている。全体のアンサンブルが秀逸で何度も聴き返したくなる。ざわつく自分の心を現実から少し離してくれてクールな別世界へ連れて行ってくれる、そんな日曜日の夜にぴったりな1曲です。(Shingo Suzuki)
アルバム『Kind Of Blue』収録。

&Music / 土曜の朝と日曜の夜の音楽 Ⅱ

&Music / 土曜の朝と日曜の夜の音楽 Ⅱ

音楽好きの“選曲家”たちが月替わりで登場し、土曜の朝と日曜の夜に聴きたい曲を毎週それぞれ1曲ずつセレクトする人気連載をまとめた「&Music」シリーズの第2弾。 23人の選曲家が選んだ、週末を心地よく過ごすための音楽、全200曲。 本書のためだけにまとめた、収録作品のディスクガイド付き。

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ミュージシャン Ovall (オーバル)

Shingo Suzuki、mabanua、関口シンゴによるトリオバンド。メンバー全員がソロアーティスト/ミュージシャン/プロデューサーとしても活動するマルチプレイヤー集団。2006年から現メンバーでの活動を本格化、現在に至るまでジャンルよりもミュージシャンシップを軸に置く姿勢を貫く。ジャズ、ソウル、ヒップホップ、ロックを同列に並べ、生演奏もサンプリングもシームレスに往復し、楕円(オーバル)のグルーヴの中に音を投げ込む。その斬新なスタイルと唯一無二のサウンドは徐々に時代を吸い寄せ、国内外の映像作家、映画監督、そして様々なアーティストからプロデュースやコラボレーションの依頼が殺到。それぞれがソロ活動を活発化させるが、個々が多忙を極めたことが諸刃の剣となり2013年にバンド活動を休止、それぞれの表現を追い求め始める。しかし「この3人ならではのアンサンブルが聴きたい」という要望が絶えず、メンバーもその思いに応える形で、4年の歳月を経て2017年に再始動。直後よりFUJI ROCK FESTIVALなど国内の大型フェスに出演、そして世界中のアーティストとのコラボレーションや海外でのライブツアーも行う。ソロ活動で培ったスキルやノウハウをお互いに持ち寄り、今日もバンドは楕円を描きながら転がり続ける。

ovall.net

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