MOVIE 私の好きな、あの映画。
セラピスト、フレグランスコーディネーター 山野辺 喜子さんが語る今月の映画。『グラン・ブルー』【極私的・偏愛映画論 vol.95】October 25, 2023
This Month Theme自分にとっての”ベターライフ”に向き合える。
心の奥底を見つめ、好きなことを追求するために。
『グラン・ブルー』に出合ったのは、高校生のとき。憧れの先輩に勧められて観賞したのがきっかけでした。
フリーダイビングの第一人者、ジャック・マイヨールが歩んだ生き方にフォーカスをあてながら、世界記録に挑む2人のフリーダイバーの愛と友情とプライドについて丁寧に描かれた作品です。
当時の私は、自分が好きなことに対して命をかけて貫き通す、ジャックのピュアでまっすぐな生き方に強く心を揺さぶられました。その想いは、時を経たいまでも変わらないまま。私にとって、自分の人生を切り拓いて生きることの大切さを教えてくれる貴重な一作です。
リュック・ベッソン監督が指揮を執っていることもあり、映像の美しさにも惹きつけられます。モノクロで描かれる夏の海やイルカが跳ねる月夜の海のシーンなど、海の表情が豊かに描かれており、背景に流れる幻想的な音楽との調和に心を動かされました。
特に印象に残っているのは、ジャックがイルカと戯れるひとときや、元気のないイルカを水族館から連れ出し、夜の海で泳がせるシーン。人間と動物の境界を越えてイルカに愛情を注ぎ、共に過ごしているときの幸せな表情から、ジャックの心の温かさと愛をもって生きることの喜びを強く感じました。
一方で、好きなことを追求し自分自身を貫くことは、他人に理解されない孤独を伴うということが、彼の姿を通して浮かび上がります。孤独を抱きながらも、自分自身を深く見つめることの大切さを学びました。そうした生き方にこそ、真の喜びや幸せがあるのだ、と。
30年という時を経て改めてジャックの生き方に触れ、大人になった自分自身を見つめるいい機会をもらったように感じています。私自身、ジャックのように自分と向き合いながら好きなことを追求し、情熱を注いで生きるということができていると感じられ、今の自分を素直に肯定できました。
そうして、ジャックの生き方に想いを馳せているうちに、10代の頃の自分の姿と出合うことができました。太平洋沿いで生まれ育ち、夏には毎日のように兄と海で過ごし、父と母に見守られ暮らしていた頃のことが、懐かしさとともに思い出されます。
時を超えて、自分自身のルーツや内面に向き合えるかけがえのない作品は、心が疲れたとき、気持ちを切り替えたいときに、私の心に優しく寄り添い、そっと背中を押してくれる揺るぎない力を持っています。
illustration : Yu Nagaba movie select & text:Yoshiko Yamanobe edit:Seika Yajima