ジェームズ・タレル文/河内 タカThis Month Artist: James Turrell / May 10, 2018
知覚をうながす光のアーティスト
ジェームズ・タレル
光を使ったアーティストとして知られるジェームズ・タレルは、日本国内においてもタレルらしさを満喫できる上質な作品がさまざまな場所で恒久的に展示がなされていたりするため、アートや美術館好きなら「このアーティストの作品は見たことがある」という人もわりと多いのではないかと思います。
タレル作品の大きな特徴は、光をまるで形のある物質みたいなもののごとく、光そのものにフォーカスをした見せ方をするところです。たとえば、天井が四角にぽっかりと開けられた空っぽの部屋の作品は、空の色が変わっていく際に見えないところから人工の光を加えることで不思議な空間スペースを作り出したり、部屋の片隅に光のかたまりを提示したり、あるいは真っ暗な暗闇で次第にほのかに発光する物体が現れたりと、人の光に対する知覚を取り入れた芸術作品を提示してきました。
タレルは一般的に「サイトスペシフィック」、すなわち展示場所に合わせて作品を制作したりスケールを自在に変えたりするアーティストなのですが、提示されるものは光による視覚効果を狙ったわかりやすい作品であり、複雑で難解なことを問うようなものでもありません。したがって、誰もが芸術論や理論云々がなくてもその摩訶不思議に感じる芸術を楽しめるわけで、それが作品の知名度にも繋がっているのでしょう。
最初に触れたように、タレルの恒久展示作品が日本には多くあって、列挙すると、香川県の直島にある安藤忠雄が設計を行なった『南寺(みなみでら)』、同じ直島になる地中美術館の三作、金沢21世紀美術館の『ブルー・プラネット・スカイ』を含む二作、新潟県十日町の『光の館』、熊本市現代美術館の『MILK RUN SKY』などです。それぞれがとてもエンターテイメント性と参加型という点において優れたものばかりで、現代アートへの入り口となるとても貴重なアーティストではないかと思います。
さて、そのタレルが長年取り組んでいるプロジェクトの中で、「今はどのくらい完成しているのだろうか?」と話題になる作品があります。それが『ローデン・クレーター』というアリゾナ州のフラッグスタッフ郊外にある噴火口を使ったアート作品で、なんと死火山を人工的に円形のすり鉢状に整備し、宇宙のパノラマを眺める巨大な裸眼天文台を作り上げようとしているのです。さらにその中に地下トンネルを通すことで、太陽や月など天体の動きにあわせて差し込む光を体感できるような空間となるとてつもなく大きなスケールの作品になるそうで、タレルは1979年からこの作品に取りかかり、約40年も経った今も断続的に作業は進められているものの、完成はおそらくまだ先のことだといわれています。
しかし、もし完成すればひとつのアート作品としては最長年数かつ最大規模のものになり、ドナルド・ジャッドの代表作が数多く点在するマーファや直島のように世界中からアート巡礼者たちが訪れる場所になっていくのかもしれません。とはいうものの、今も建設が続けられているガウディの『サグラダ・ファミリア』さながら、今の進行ペースだとおそらくアーティスト本人が亡くなった後も地道に制作が続けられるという予感がしてしまうのですが、その経過も含めてタレルの独創性に富んだ作品が今後どういった展開をしていくのか興味が尽きないところです。