ゴードン・マッタ=クラーク文/河内 タカThis Month Artist: Gordon Matta-Clark / June 10, 2018
アート作品として家を切断した
ゴードン・マッタ=クラーク
1960年代末期頃において最先端のアートとされたのが「アースワーク」、別名「ランドアート」とも呼ばれる自然そのものを素材とするアートムーブメントだったのですが、その活動に20代半ばに参加し触発されたことで独自の制作を展開していったのがゴードン・マッタ=クラークというアーティストです。そんな彼が1974年に制作したのが『スプリッティング(分割)』という作品であり、なんとそれは人が住んでいない一軒家をチェーンソーで真っ二つに切断するという驚きのプロジェクトだったのです。
1970年代のアメリカは慢性的な不況に直面していて、マンハッタンやその近郊においてもローンや家賃が払えなくなり置き去りにされた建物が点在していたそうです。そういった物件に目をつけ家そのものを自身のアートの素材にしてしまい、この他にも建物の天井や床に四角い穴を開けた『ブロンクス・フロアーズ』、取り壊されることになっていた古い建築に大きな円錐状の穴を開けた『ビルディング・カット』、また床を階上から順に抜き、その外観や内側から撮った写真と映像を制作ドキュメントとして精力的に残していきました。
これらの作品は一見すると芸術からかけ離れた破壊行為と捉えられかねないですが、彼が目論んでいたこととは当時の都市の変遷を反映させた「パブリックアート」であり、それは遺棄されていた建物の中に新たな価値や芸術性を見出し、その再生や再利用といったことに目を向けさせる創造的な行為でもあったのです。加えて、アースワーク後のアートの進むべきひとつの可能性を提示したという点において、当時のアーティストたちに及ぼした影響力は少なくなかったと想像できます。
そんな革新的ともいえるマッタ=クラークの豊かな創造性が別の形で反映されたのが、路面店舗を使った“アーティストによるアーティストのためのレストラン『FOOD』でした。こちらは一軒家ではなくソーホーの一画に放置されていた商業スペースを再利用し、アーティストたちに食事を振る舞うことで新たなコミュニティの場を作ることを念頭に置いた彼でしかできないようなアートプロジェクトでした。この食堂は短期間的なものでなくそれから約3年に渡って営業が続けられ、その間約60人にも及ぶアーティスト達が調理やサービスに至る様々な形で参加していた活気あるスペースだったといいます。
こういった従来のアートスタイルにはなかったようなラジカルだけどどこか温かみのあるコンセプトを作り出したマッタ=クラークでしたが、アーティストとしてもまさにこれからという時に突然襲いかかった病に蝕まれ35歳の若さで亡くなってしまいました。今現在は彼が切ったり穴を空けた建物はすべて取り壊され現存するものひとつもなくなり、切断された建物の断片とともに記録写真や映像がその当時の姿を伝えるのみなのですが、欧米の美術館で本格的な回顧展が行われたことで新たな視点で見直されていて、短かい制作期間であったけれど彼の豊かな考え方や功績は今もリスペクトされ続けているというアーティストなのです。
ゴードン・マッタ=クラークの回顧展「ゴードン・マッタ=クラーク展」が、2018年6月19日(火)から9月17日(月・祝)まで、東京国立近代美術館にて開催される。本展はわずか約10年という短い活動期間の中で、アート、建築、ストリートカルチャー、アーティストによる食堂「FOOD」の経営と、多彩な才能を発揮したマッタ=クラークの活動をフルスケールで紹介する内容となる。
http://www.momat.go.jp/am/exhibition/gmc/