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極私的・偏愛映画論『落下の王国』選・文/服部滋樹(〈graf〉代表、クリエイティブディレクター、デザイナー) / September 29, 2017

This Month Themeものづくりに賭ける真剣さに触れる。

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地球史上、最も美しい所を巡りこの作品を作り続けてきたことに感動する。

 このタイトルに適切だかどうかですが……この1本を。僕はロードムービーばかりを好む時代が人生に何度か訪れたものだ。若かりし青春時代は勿論の事。振り返ってみると、それは5年おきの節目でやって来るような気がする。青年期には純文学が若者ならではの迷走をより大きな渦へと誘い、出口の解らない迷宮へと引きずり込んだ。そして、15歳の混沌としていた毎日には、ヴィム・ヴェンダース監督の『パリ・テキサス』が僕を光の射す方へと何度も何度も連れ出してくれた。何故ロードムービーだったのか? それは今だ解らずにいるのだが……。今回のテーマに合わせて考えてみると、こんな所だったんじゃないだろうか。ロードムービー特有のドキュメントのようなタッチは、登場人物たちが辿る終着点までの道のりをドラマティックな人生として描き出す。普通の日常だったり、些細なハプニングを織り交ぜながら。それは、誰にでも起こり得る出来事のようであり、僕の人生と重ね合わせて観ることが出来たのだろう。その後の僕のロードムービーの“見漁り”方は半端ない。今やグーグルで検索すると50以上のロードムービーがヒットするが、ほぼ見尽くしたんじゃなかろうか。そんな映画道を歩む僕が今回お勧めしたい傑作は、『The Fall』です。この作品は『The CELL』でもなじみのチームが総力を挙げて作ったもの。映画の内容そのものはもちろん、キャスティングやチームにも惚れているが、それ以上にCGを一切使用せず、見た事も無い“世界観”を現実の世界地域を点々としながら生み出しているところに感動する。前段でお話しした、ロードムービーとは打って変わったような作品だ。物語は主人公の不運な日常に対し、非日常的世界が交差して展開していく。それが簡単なあらすじだが、必ず観た方が良い作品なので、ストーリーについて多くを話すつもりはない。監督のターセム氏は構想26年と言う歳月の中、地球史上最も美しい所を巡りこの作品を作り続けてきたのだろう。現実世界に非現実が存在し、その瞬間に出会えるかどうか? むしろ、気づけるかどうか? なのだろう。日常の美しい光景に巡り会えるのは自身次第だと言うことを、巧妙に仕上げられた世界の中にも感じるのだ。そんな作品に感動した僕は、また小さな出逢いを求めて新たな道を進みたいと思った。

illustration : Yu Nagaba
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あらゆる“美”が盛り込まれた映画です。物語の構成、構造、自然の造形などなど見所がいっぱい。形態美〜映像の美しさに至り、美的感性をくすぐられます。
Title
『落下の王国』
The Fall
Director
ターセム・シン
Screenwriter
ダン・ギルロイ
ニコ・ソウルタナキス
ターセム・シン
Year
2006
Running Time
118分

〈graf〉代表、クリエイティブディレクター、デザイナー 服部 滋樹

1970年生まれ、大阪府出身。〈graf〉代表、クリエイティブディレクター、デザイナー。美大で彫刻を学んだ後、インテリアショップ、デザイン会社勤務を経て、1998年にインテリアショップで出会った友人たちと〈graf〉を立ち上げる。建築、インテリアなどに関わるデザインや、ブランディングディレクションなどを手がけ、近年では地域再生などの社会活動にもその能力を発揮している。京都造形芸術大学芸術学部情報デザイン学科教授。

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