美しい暮らしのある、日本の町を旅する

長野・松本で成熟した暮らしの文化と美しい山並みを堪能する。__後編July 16, 2023

城下町だった面影を残し、長い歴史と守られてきた伝統、そこに新しい文化が加わった土地、松本。文化が成熟している町のゆとりと、信州の澄んだ空気と山並みの美しさが相まって、さまざまな表情が垣間見える。その魅力に惹かれ移住した古物店『guild Bekkan(ギルド ベッカン)』の店主・中島孝介さんがおすすめする楽しみ方とは。この記事は松本を旅した後編です。前編はこちら

24の写真で辿る、美しい暮らしのある町・松本。

国宝・松本城(松本市丸の内4 )は、松本の町を代表するシンボル的存在。
国宝・松本城(松本市丸の内4 )は、松本の町を代表するシンボル的存在。
カレーとおやきの店『something tender』(大手4‒8‒21)では、数種の天然酵母おやきを販売している。
カレーとおやきの店『something tender』(大手4‒8‒21)では、数種の天然酵母おやきを販売している。
イートインでは、シュリンプマサラとココナッツチキンカレーを。ランチは売り切れ必至なのでお早めに。
イートインでは、シュリンプマサラとココナッツチキンカレーを。ランチは売り切れ必至なのでお早めに。
路地裏や道端には地域猫がたくさん。
路地裏や道端には地域猫がたくさん。
昨年7 月にオープンしたスタイリスト・荻野玲子さんのヴィンテージショップ『REVONTULI(レヴォントゥリ)』(蟻ケ崎2‒5‒6)。ヨーロッパやアメリカのヴィンテージ雑貨や手芸用品、キルト、アクセサリーなどが揃う。
昨年7 月にオープンしたスタイリスト・荻野玲子さんのヴィンテージショップ『REVONTULI(レヴォントゥリ)』(蟻ケ崎2‒5‒6)。ヨーロッパやアメリカのヴィンテージ雑貨や手芸用品、キルト、アクセサリーなどが揃う。
「週末のみオープンです」と荻野さん。
「週末のみオープンです」と荻野さん。
市街地から離れた場所に佇む松本民芸館(里山辺1313‒1)。建物の意匠も美しい。
市街地から離れた場所に佇む松本民芸館(里山辺1313‒1)。建物の意匠も美しい。
館内には、創設者、丸山太郎が蒐集した国内外の民藝品およそ6800点が収蔵。
館内には、創設者、丸山太郎が蒐集した国内外の民藝品およそ6800点が収蔵。
『クチネッタにし村』の西村夫妻。息の合った二人のおもてなしも気持ちいい。
『クチネッタにし村』の西村夫妻。息の合った二人のおもてなしも気持ちいい。
民藝の提唱者から薫陶を受けた、まるも旅館併設の『珈琲まるも』(中央3‒3‒10)。
民藝の提唱者から薫陶を受けた、まるも旅館併設の『珈琲まるも』(中央3‒3‒10)。
広大なアルプス公園で自然を満喫。
広大なアルプス公園で自然を満喫。
『犬飼眼鏡枠』のアトリエには、フレームを作るための精密機械がずらり。
犬飼眼鏡枠』のアトリエには、フレームを作るための精密機械がずらり。
市内中央を流れる女鳥羽川(めとばがわ)も松本の象徴。橋から眺める景色にも風情がある。
市内中央を流れる女鳥羽川(めとばがわ)も松本の象徴。橋から眺める景色にも風情がある。
外観が印象的な『10㎝』の店舗は、大正時代から続く飴店が営んでいた元タバコ屋。タイルなどは当時のまま。
外観が印象的な『10㎝』の店舗は、大正時代から続く飴店が営んでいた元タバコ屋。タイルなどは当時のまま。
老舗『開運堂 本店』(中央2‒2‒15)の菓子。パッケージのイラストは松本に縁のある作家によるものが多い。
老舗『開運堂 本店』(中央2‒2‒15)の菓子。パッケージのイラストは松本に縁のある作家によるものが多い。
二人の女性が店主の『Monique』(中央2‒5‒24)は、アメリカを中心に国内外の古着やリメイクを扱うヴィンテージストア。
二人の女性が店主の『Monique』(中央2‒5‒24)は、アメリカを中心に国内外の古着やリメイクを扱うヴィンテージストア。
民藝運動に感銘を受けた池田三四郎が創業した老舗家具メーカーの『松本民芸家具 中央民芸ショールーム』(中央3‒2‒12)では400点ほどの家具を展示。
民藝運動に感銘を受けた池田三四郎が創業した老舗家具メーカーの『松本民芸家具 中央民芸ショールーム』(中央3‒2‒12)では400点ほどの家具を展示。
城下町の面影を残す中町通りには、なまこ壁の土蔵造りの建物が並ぶ。
城下町の面影を残す中町通りには、なまこ壁の土蔵造りの建物が並ぶ。
新刊本と古書を扱う書店『本・中川』(元町1‒3‒27)。ヴィジュアルブックをはじめ自然科学の本や絵本など、店主・中川美里さんが独自の視点でセレクト。
新刊本と古書を扱う書店『本・中川』(元町1‒3‒27)。ヴィジュアルブックをはじめ自然科学の本や絵本など、店主・中川美里さんが独自の視点でセレクト。
店内にはギャラリーも併設。絵本作家の原画展など定期的に企画展を開催。
店内にはギャラリーも併設。絵本作家の原画展など定期的に企画展を開催。
書店の外観は味のある平屋。看板が控えめで住宅街の中にあるので住所を要確認。
書店の外観は味のある平屋。看板が控えめで住宅街の中にあるので住所を要確認。
松本城近くにある老舗の居酒屋『しづか』(大手4‒10‒8)。郷土料理をはじめ、おでんや焼き鳥が人気。民藝に縁ある作家の暖簾や看板も楽しめる。
松本城近くにある老舗の居酒屋『しづか』(大手4‒10‒8)。郷土料理をはじめ、おでんや焼き鳥が人気。民藝に縁ある作家の暖簾や看板も楽しめる。
女鳥羽川に沿って長屋風の店が並ぶ商店街、縄手通りは〝カエル〞がシンボル。
女鳥羽川に沿って長屋風の店が並ぶ商店街、縄手通りは〝カエル〞がシンボル。
『REVONTULI』に隣接する『RAULA』(蟻ケ崎2‒5‒6)は今年6 月にオープンしたばかりのコーヒーショップ。
『REVONTULI』に隣接する『RAULA』(蟻ケ崎2‒5‒6)は今年6 月にオープンしたばかりのコーヒーショップ。

The Guide to Beautiful Towns_松本

町に根付く暮らしの文化、個性溢れる店主に会いに。

 松本には暮らしを彩る文化が根付いている。それは旅であれ、短期間の滞在であれ、この土地に足を運べばよくわかる。戦国時代末期と江戸時代、異なる時代にわたり築造された松本城を中心に、蔵が並ぶ中町通り、女鳥羽川(めとばがわ)を挟んで、長屋造りの店が続く縄手通りなど城下町の面影が色濃く残る中心部。その近くには、明治時代に造られた日本最古の学校の一つ、旧開智学校や大正期に開校した文部省直轄学校の旧制松本高等学校の歴史的建造物が点在する。学校を招致するなど、昔から教育に力を入れる土地でもあった。昭和になると、柳宗悦らが提唱する民藝思想に影響を受けた松本出身の丸山太郎が、戦後の信州松本の民藝運動の中心的な担い手となり、1962年に松本民芸館を開館。以来、松本は〝民藝のまち〞としてもよく知られるようになった。ここ最近では、現代的なライフスタ
イルを軸とした店も増えており、移住者が多いのもこの町の懐の広さを表している。つまり松本という場所は、長年にわたり歴史や伝統を大切にしながら、外からの影
響も柔軟に受け入れ、自分たちの暮らしの質を上手にアップデートしてきた土地だといえる。

 松本に10代の頃から馴染みがあったという『guild Nemuro(ギルドネムロ)』の店主・中島孝介さんは、2019年、2号店となる『guild Bekkan(ギルドベッカン)』を市内にオープンした。

「都会すぎず、田舎すぎず、バランスがいい場所だなと思います。実家が近いこともあって、昔からよく知ってはいた土地でしたが、実際に生活してみたら文化度が高く、感性の高い人たちが多く集まっているのも特徴ですね」

 音楽、映画、演劇、アートなど、さまざまな文化に触れる場所や機会も多く、クラフト関連のイベントも頻繁に開催される。

「昔から暮らしの文化がきちんとあるんでしょうね。それを感じたのは松本民芸館に行ったとき。素朴な器だったり、味がある家具だったり、洗練されすぎてない、奇を衒っていない日常の中の道具にたくさん触れることができた。ここにあるものは国内外から集められたものだけど、松本という地で民藝が受け入れられたことがわかる気がします。僕自身、海外に行って蚤の市でものを選ぶときにもその見方は多少なりとも影響を受けていて勉強になっています」

 今回、中島さんがお薦めしてくれた店は、ジャンルこそバラバラだが、扱うものに対する愛情の深さやどういう店でありたいかという考えが近い人たちが多い。

「わかりやすくいうと、金儲けしたいという俗物的なことではなく、ピュアなんです。みなそれぞれ純粋に、真面目に商売をしている感じがある。例えば『犬飼眼鏡枠』の犬飼さんは、眼鏡作りへのこだわりに本当に驚愕します。日曜だけが営業日で客がオーダーできる日ですが、それ以外の日はすべて製作に充てている。一からすべて作るからフレームは1年半待ち。眼鏡をすべて一人で作る。〝真摯に作りたい〞という気持ちが伝わってきて、それは実際に犬飼さんが作るものに表れていると思います。『クチネッタにし村』の料理もまた、西村祐介さん、みどりさん夫妻の人柄がそのまま料理に表れている。ただ〝おいしい〞だけでなく、体に染みるというか、また食べたいという気持ちになる店なんですよね」

 他にも週末しか開いていない、木工作家・三谷龍二さんが手がける現代の生活工芸を扱うギャラリー兼ショップ『10㎝』や、あえて町中から外れた場所でやっている店主、中川美里さんの選書がユニークな書店『本・中川』、最近オープンしたスタイリスト荻野玲子さんのヴィンテージショップ『REVONTULI(レヴォントゥリ)』など、自分たちのやり方
を貫くスタンスがいいと中島さん。

「無理のないことが店の個性に繋がっているのかもしれないですね。周りの顔色を気にしすぎない。迎合しない。周囲に流されていない方たちが多い。東京では難しいと思われる店のスタイルも松本では許される。受け入れてくれる環境や風土もあるのかなと思います」

 それぞれマイペースだからなのか、町中を歩いていてもどこかゆとりが伝わってくる。そんな松本を旅で訪れたときの楽しみ方は?

「中心地はコンパクトなので、徒歩で巡るのもいいですが、僕はレンタサイクルを借りて、少し行動範囲を広げるのが面白いと思います。そうすると『本・中川』や『REVONTULI』など、中心部から少し離れている、いい店にもアクセスしやすくなる。遠くにアルプスを望みながら走ったり、川沿いで風を感じながら走ったり。ちょっとした自然に触れながら面白い場所を巡れる。町と自然との距離が近いので、その気持ちよさをぜひ楽しんでほしいと思います」

中島孝介 『guild Bekkan 』店主

長野県出身。東京の書店『リムアート(現POST)』を経て、2013年に北海道・根室で古物を中心としたセレクトショップ『guild Nemuro』をオープン。2019年には松本に『guild Bekkan』を構え、現在2拠点で生活する。

中島孝介
 
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新宿駅から松本駅までJR特急あずさ号で約2時間40分。東京駅からは北陸新幹線で長野まで行き、JR篠ノ井線に乗り換え。松本行きのバスも都内各所から毎日運行している。中心街へはタクシーかレンタカーの他、松本駅から出ている周遊バスで。中心街は徒歩でも回れる。公共のレンタサイクルもあり。

この記事は松本を旅した後編です。前編はこちら

photo : Tomoyo Yamazaki illustration : Jun Koka edit & text : Chizuru Atsuta

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