真似をしたくなる、サンドイッチ
パリで話題のケバブサンド店がつくる、日曜日限定のミートボールサンド。September 12, 2024
サンドイッチをこよなく愛するパリ在住の文筆家、川村明子さん。『&Premium』本誌の連載「パリのサンドイッチ調査隊」では、パリ中のサンドイッチを紹介しています。
ここでは、本誌で語り切れなかった連載のこぼれ話をお届け。No44となる今回は、本誌No130に登場した『メメット』で惜しくも紹介できなかったサンドイッチの話を。
ケバブサンドの店『メメット』に行ったのは。
長年飲食業に携わる友人が何度か足を運んでいたから。この人がリピートするならばおいしいに違いないと思ったのだが、なかなか行く機会が作れなかった。オープンしてからしばらくは夜のみの営業で、「行きたいな」とは思うのだけれど、ケバブサンドを夕食に食べる気分が、待てども湧いてこなかった。加えて、自宅からは45分ほどかかる距離なものだから、それなりのモチベーションが必要で、それもまた、夜はすっかり家で過ごすようになり、外食は月に1度するかしないかという私の重い腰を上げるまでには、湧いてこなかったのである。
待ちに待った、ランチ営業スタート!
すると嬉しいことに、夏前から平日のランチ営業が開始された。それを知って、待ってました!とばかりに出かけた。が、その日、私は疲れていた。胃の調子が万全でなければ本来は行かないけれど、すでに私の食のスケジュールは満遍なく埋まっていて、そのお昼を逃したらだいぶ先延ばししなければならなかった。だから、思い切って、強行することにした。
店に着いたら、ほとんど満席で。
細長い店内のいちばん奥にあるスツール席にどうぞと言われた。その場所を確認して私は、“注文を取りに来るまでに時間がかかるかもしれない”と思い、メニューを見るまでもなく、入り口で、ケバブサンドを注文。ところが、厨房で回転している肉の串焼きを横目に混雑を抜け、自分にあてがわれた席に座った途端に、迷いが顔を出した。“ベジタリアンにしたほうがいい気がする”“ケバブ、無理じゃない?”などなど弱気な心が私を揺さぶり、“今日の胃はお肉を受け止めきれない気がする”と思うに至った。作り始める前に言いに行かなければならない。急いで、先に注文を取ってくれた男性に向かい、「もしまだ作り始めていなかったらベジタリアンに変更したい」と伝えた。
ぷっくりしたガレットが美しい、ベジタリアンロールサンド。
そうして出てきたベジタリアンロールサンドは、白くぷっくりとしたガレット(生地)が美しかった。思わず触れたくなってしまう赤ちゃんのほっぺのように触り心地がよさそうだ。フェタチーズ、ディル、炒ったアーモンドとレタスに、ざくろの糖蜜をかけた具の組み合わせも興味深かったけれど、食べたらより一層ガレットに惹かれた。こんなにも柔らかな印象のガレットで作るケバブサンドは、どんな味なのだろうと思いを膨らませた。
胃の調子を整えて、念願のケバブサンド。
今度は胃の調子を整えて、再訪した。念願のケバブサンドは、力強くも清らかで、とてもスマートな味だった。大雑把なところのない、全ての要素にきちんと手をかけている味。
そもそも、ケバブサンドを食べるにはいつもちょっとした勇気がいる。なぜって、たいていボリューム満点だし、肉が盛りだくさんで、元気じゃないとそのワイルドさに負けてしまう。でもこれからは、ケバブサンドの味を欲したならば、怖気付くことなく『メメット』に行けばいい。切っただけの生野菜はパセリのみで、水にさらして絞った赤たまねぎや、漬け白キャベツなど、ひと手間が功を奏しているのだろう、胃が受け入れやすいおいしさを作り出している。
今回の主役は、メニューには書かれていない、日曜日限定の「ケフタ」。
メニューには書かれていないのだけど、日曜には、「kefta(ケフタ)」が作られる。仔牛と仔羊肉を合わせて作られるミートボールは、まさにハンバーグの出立ちだ。フワッとしているタイプではなく、ぎゅっと詰まっていて、すごく捏ねられている感じ。
ポイントは、はじめからサンドイッチにしやすい大きさにするのではなく、それだけで食べておいしい大きさに丸めて焼いてから、半分に切って、サンドイッチの具にすることじゃないかと思う。そして、これまたまさにハンバーグソースに見える色とコクで、なんだろう?と思ったら、トマトソースだった。トマトの味がとても濃い。材料をミキサーにかけてからじっくり煮詰めているそうだ。
悩ましいのは、ロールサンドとして巻き込まず、ケフタを焼くのと同時に、焼き汁を纏わせながら焼いたガレットを添えて出される、皿に盛り付けるバージョンも捨て難いこと。こちらは唐辛子のピクルスも付いてくる。いずれにしても日曜限定のお楽しみ。