河内タカの素顔の芸術家たち。
ものづくりの探求を徹底して貫いた ジャン・プルーヴェ【河内タカの素顔の芸術家たち】Jean Prouve / August 10, 2022
ものづくりの探求を徹底して貫いた
ジャン・プルーヴェ
20世紀の工業デザインと建築において多大な影響を与え続けたジャン・プルーヴェ。そんな彼が実は建築士の資格を持たない独学の構築家であったことはご存知でしょうか? それだけでなく、工場の経営者、政治活動家、大学教授、さらには公的な役職にも就くなど多彩な経歴を持つ型破りな人生を送った人でした。芸術家であった父ヴィクトールの影響を受け、若い頃から金工職人としてキャリアをスタートしたプルーヴェは、23歳の時にフランス東部のナンシーに初めて工房を構え、家具や店先のファサードなどの設計を手がけるようになります。
その当時、つまり1920年代の頃、バウハウス出身のマルセル・ブロイヤーやミース・ファン・デル・ローエ、そしてフランスではピエール・ジャンヌレやシャルロット・ペリアンらが、こぞって鉄製パイプを使った家具デザインに取り組んでいたのに対して、同じスチールでもプルーヴェはそれを折り曲げたりプレスしたりすることを好み、それが自身の家具作りにおいて大きな要素になっていきます。もともと職人だったプルーヴェだけに、自ら図面を引き、強度や構造を試すための試作品を何度も作り直しました。さらに、金属や合板などの工業資材を用いることで、それまで誰もたどり着けなかった合理的で無駄のない構造を叶え、デザイン性に優れた家具を続々と生み出していくようになっていくのです。
家具デザインだけに留まらず、戦時中はレジスタンス運動に関与し政治活動を活発に繰り広げ、地元の人気を得てナンシーの市長にも選出されました。戦後にはナンシー郊外のマクセヴィルに新しい工場を開設し、大量生産による家具の製造に着手するとともに、建材としてアルミの可能性をさらに追求し、リビングルームとベッドルーム2室を備えた《生活向上組立住宅》を開発。住宅不足を解消する目的のそのプレハブ住宅は、数人が集まり7時間ほどで建てられるという時代を先駆けた画期的な工法として高く評価されました。
現在、東京都現代美術館で行われている「ジャン・プルーヴェ展 椅子から建築まで」は、歴代のかなりの数の椅子、テーブル、自転車、ドア、パネル、住宅の梁や骨組などを、どことなく工業製品の展示会のような会場構成で見ることができます。その中でもプルーヴェが手がけた椅子はどれもとても見応えがあり、やはりプルーヴェにとって核となるのは椅子のデザインだったのだと会場であらためて認識しました。椅子の構造、耐久性、素材、そしてデザイン性を徹底して研究していったことで、結果的に他の家具や照明器具や文具、さらにその先に見据えた建築設計の土台を作ったことは疑う余地がないのではないでしょうか。
「自分は建築家でもなく、エンジニアでもなく、ただ工場で働く男なのだ」とプルーヴェは語っていたそうですが、まさしく彼は建築家と技術者の両方の能力を兼ね備えた人物でした。また自身もそのことを誇りにしていたからこそ、執拗に図面を引き、強度や精度を高めるために試行を繰り返し、腕のいい職人たちとコラボレーションをしながら、常に素材との対話によって精度の高いモノづくりができたのです。そこにはものづくりに対する並々ならぬ探究心とこだわりがあったわけで、特定の様式や既存の価値観にとらわれることのなかったこの一人のフランス人が、今もなお尊敬され愛され続けている理由なのかもしれませんね。
展覧会情報
「ジャン・プルーヴェ展 椅子から建築まで」
会期:2022年10月16日まで開催中
会場:東京都現代美術館
住所:東京都江東区三好4-1-1
https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/Jean_Prouve/