Good for Me 編集部が出合ったベターライフ。

写真家・大森克己さんに聞いた、26歳の私に読んでほしい本。橋本治『蓮と刀』September 27, 2025

26歳、編集者2年目の私が、仕事先で出会った先輩方に今読むべき一冊を聞く連載。今回は、写真家の大森克己さんに教わった橋本治『蓮と刀』(作品社)です。

写真家・大森克己さんに聞いた、26歳の僕に読んでほしい本。橋本治『蓮と刀』

 大森さんにこの本を紹介していただいたのは、昨年末、本誌134号「明日を生きるための映画」内、「俳優・安藤玉恵さんの人生を変えた映画」の取材にて。「橋本治の著書はほとんどすべて読んでいますが、これは大学生のころに出合った一冊。若いときは難しい本、長い本を読んでおいた方が良いですよ」と紹介してくれました。

 私はそれまで橋本治の本を読んだことがなかったので、たしかに大森さんはアンドプレミアムでも橋本治の話をしていたな、これは良い機会だと編集部に戻ってさっそく注文。既に絶版となっていたので、古本を取り寄せました。しかし、読み始めてすぐに確信。本当に難しい。ページをめくるたびに寝落ちしながら、内容を理解できているのかもわからないまま、少しずつ読み進めること約9か月。それでも、やっとたどり着いた最終章では、「これが言いたかったのか……!」と全てが繋がり、爽快な結末が待っていました。

男が恐れているもの。

 本書の副題は、「どうして男は"男"をこわがるのか?」。フロイトのエディプス・コンプレックスや夏目漱石『こころ』への批評を通して、男が抱える生きづらさ、男はなぜ"おじさん"になってしまうのか、などを論じます。引用の多さと作者の圧倒的な教養の深さについていけず、途中何度も挫折しながらも、彼の主張は驚くほどに現代的で、1980年代に書かれたとは思えないほど。

 たしかに男って居心地が悪い。そう思うことが、年齢を重ねるほど多くなっている気がします。最近読んだ朝井リョウさんの最新作『イン・ザ・メガチャーチ』(日本経済新聞出版)にも、大人の男性同士が友情を育むことの難しさがテーマのひとつに登場。自分自身、社会人になってから学生時代の友人に会うと、全然話が通じなくなっていることに気づいたり、仕事を通じた関係でしかこれから仲良くなる人はなかなか登場しないのかなと思う瞬間も。マッチョなノリと無害な男性の間で、かっこいいおじさんになることの難しさを感じています。

 誰かの視線や抑圧を恐れる男性に対して橋本治は、「もういい加減、ない心配なんかすんのやめたらァ?」と最終章で言い放ちます。その一言に、私はなんだかとても救われた気持ちになったのです。難解に感じたそれまでの文章も、シンプルなそのひとつのことを伝えるために、丁寧に説明してくれていたんだと気づきました。

 と、ここまで書いてきましたが、結局、理解できていない部分も多いのが正直なところ。ただ、大森さんが自身のエッセイ集、『山の音』(プレジデント社)で、「まだ自分の中で受け止めきれていない橋本さんの言葉が蠢き続けている」と記されているのを見て、自分もそうしていこうと思えました。胸の内に残る言葉がときに前に進むエンジンに、ときにストッパーに。少しずつ噛み砕いていけたらと思います。社会に自分を寄せるのではなく、”おじさん”に抗いながら一歩ずつ。

Book Information『蓮と刀 どうして男は男をこわがるのか』

著者:橋本治
定価:¥1,400
発行:作品社


編集部員によるリレー連載「Good for Me. 編集部が出合ったベターライフ」がスタートしました。ファッションや日用品、おいしいおやつ、旅先で見つけたもの…など、時には極めて私的な視点でお届けする編集部員のオススメはこちらから。


Editor 出口 晴臣

出口晴臣
『&Premium』編集部。本誌とデジタルを担当。HIPHOP、サウナ、カレーが好きです。最近興味があるのは、登山、多肉植物、自転車。

Pick Up 注目の記事

Latest Issue 最新号

Latest Issuepremium No. 143美しい、ということ。2025.09.20 — 980円